商社の仕事人(24)その1

2017年06月19日

阪和興業 山本雄己

 

プロフェッショナル&

グローバルを体現する

 

 

【略歴】
1988年京都府生まれ。同志社大学法学部法律学科卒。2010年に阪和興業に入社。以来、海外営業第1部第1課で鋼材の営業に携わる。

 

最初に味わった悔しさ

阪和興業の山本雄己はまだ入社6年目だが、海外営業第1課において、海外マーケットに打って出るための重要なプロジェクトを担当している。今ではそのプロジェクトのことなら彼に聞けと、社内外で第一人者と認められる存在だ。だが新人で配属された1年目のことを思い出すと、苦難の連続でしかなかったと言う。

つまずきの始まりは、営業担当となった最初の商談だった。

阪和興業の海外営業第1課は、国内の鉄鋼メーカーから薄板を仕入れて海外の顧客に輸出する業務を行っている。山本はここでまず貿易実務の基礎である商品の出荷や代金の回収、銀行の信用状の発行に関わる書類の作成など、営業担当が受注を決めてから行う事務処理を徹底的に勉強した。

8月になり、初めて社外に出て取引先を相手にする仕事を任された。問題となった商談は、薄板の主力商品のひとつである冷延鋼板をマレーシアのコイルセンターに輸出するというものだった。

「それまで毎月継続してきた取引なので、上司も大丈夫だろうと判断したのだと思います。ところが成約直前になって、急に商談の条件が大幅に変更になったのです。今思えば、海外顧客にはありがちなことで、前もって適切なリスク管理をしておくべきでした」

コイルセンターでは、鉄鋼メーカーから納品された薄板コイルを複雑に加工してエンドユーザーに販売する。それまでは同じエンドユーザーに同じ条件の冷延鋼板を納品していたが、工場の生産スケジュールの兼ね合いにより、全く別のエンドユーザーに納品することとなったのだ。

山本のように国内で勤務している営業担当は、阪和興業の海外現地事務所、海外顧客、鉄鋼メーカーの三者を取り纏め、プロジェクトが滞りなく進行するための重要なパイプ役を担わなくてはならない。

「突然のことですまないが、なんとかこの条件でメーカーを説得して欲しい」

そう現地事務所から頼まれて、山本は鉄鋼メーカーに事情を説明した。だがメーカーの担当者ははるかに年上のベテランで、簡単には条件変更を受け入れてくれない。

「最初の条件と違うのであれば、こちらも条件を変更しなければならない」

確かに条件は一部変わっているものの、鉄鋼メーカーも阪和興業も販売先はそれまでと同じコイルセンターであることに変わりはない。そんな安易な考えで交渉を引き受けたのだが、鋼材自体の性質や工場での加工機械や工程など、考え得るあらゆるリスクをコントロールできていなければ、納品後に大きな問題に発展することとなる。自分の考えの甘さを目の当たりにし、悔しさが込み上げてくるばかりだった。

結局、鉄鋼メーカーとの折り合いがつかないうちにタイムリミットが過ぎ、山本はこのプロジェクトを受注することができなかった。

⇒〈その2〉へ続く

 


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