阪和興業 山本雄己
プロフェッショナル&
グローバルを体現する
きっかけはいつも失敗から
出張から戻って少しすると、驚くことに山本はその出張のときの商材だった鋼材の担当になった。間もなくベトナムから、バイクの部品材料に採用したいという新規の案件が舞い込んだ。大きな案件であり、鉄鋼メーカーからの強力なバックアップが必要不可欠であった。ところが、皮肉にも世界的に鋼材市況の価格が上昇している最中であり、交渉はまたしても暗礁に乗り上げるのだった。
それでも山本は、この新規の商談をなんとかまとめて浮上のきっかけにしたかった。2月の出張の失敗も頭にあったので、今度は上司に頼んで交渉をリードしてもらうことにした。
その結果、諸条件の折り合いがつき始めたのはよかったのだが、一安心した山本がふと思ったのは、本当にこれで自分の実績と言えるのだろうかということだった。
「まだ山本には難しい交渉だったな」
ふと上司が言ったこの言葉が胸に突き刺さった。自分で動かなければ、何も得るものはない。山本の競争心にやっと火がついた。
「それがきっかけで、この鋼材なら誰にも負けないというぐらいのプロフェッショナルになると決めました。鉄鋼メーカーや工場に通い詰めて、分からないなりに説明を聞いたり資料をもらいながら、自分でも直近の関連情報を調べては報告し、アウトプットすることも意識しました。さらにこの商品の需要がありそうな国の海外事務所に行き、ビジネスに結び付けるべくマーケティングを進めました。高付加価値商品だからこそ、用途さえ見つかれば日本製でも海外で十分競争できると考えたのです」
まるで宣教師のように自社商品を一生懸命紹介してくれるので、鉄鋼メーカーの担当者の山本に対するサポート体制も非常に強固なものになっていった。とある国のマーケットリサーチをしてほしいと頼まれたり、逆にメーカーからも取引が見込めそうな顧客を紹介してもらえるようにもなった。気がつけばこの鋼材の担当になってから4年半で、十数件以上の新規取引がスタートしていた。どれも海外営業第1課にとっては、今や重要なビジネスのひとつになりつつある。
「日本の技術力でしか作れない商品で、競争力が高く、加工していない一般的な薄板のように価格勝負にならずに済みます。また、様々な面でリスク管理をするバックアップ体制も整えたためか、有難いことに継続してビジネスが続いています。数量は少ないが長い目で見ると悪いビジネスではありません。私にとっても、あの出張以来の一連のできごとが大きな転機になりました。数々の失敗があったからこそ、今の自分があります」
⇒〈その5〉へ続く