トラスコ中山 本間三紀
自然体で、
自分の強みを活かす
取引先に通い詰めて売上を30パーセントアップに
福岡支店で本間が営業に出たのは、トラスコ中山が全国的にこれから外回りの女性セールスを増やそうとし始めた時期だった。
「内勤のときにあいさつ回りなどで顔は出していたので、そこまで抵抗はなく受け入れていただけました。もちろんそうでないところもありましたが、自分の親世代の方も多く、行く先々で珍しがられてパンダ状態でした(笑)」
本間は自分が女性であることは意識せず、なるべく自然体で振る舞うようにした。
「どうすればお客様に満足していただけるかを考えて、できることをきっちりこなす。そうやって要望に応えていけば、打ち解けてきてもらえます。そこには男性女性という性別は関係なく、男性だからうまくいくというわけでもありません。私が常に意識していたことは予算(売上高目標)の達成率です。当社の場合、個人的に達成しなくてもペナルティはありません。ただ、支店全体の予算達成に影響するので数字の重みは感じていました」
外回り営業にも慣れていくうちに、〝伸ばしがい〟のある得意先を見つけた。社員数50名ほどの、地場では大手の機械工具商である。以前はトラスコ中山とかなりの額の取引があったのだが、時間が経つうちに少しずつ関係が疎遠になっていた。
支店長は「やりたいようにやりなさい、必要があれば全面的に協力するから」と保証してくれた。だがどのようにして売上を伸ばしなさいという指示はない。やりたいようにといっても、最初はそのやり方も分からないので、とにかく用事を見つけてできるだけその会社に通った。入り口で荷受けをしている社員には「ああ、また来たの」と言われるようになった。もちろん商談などというレベルではないが、機械工具商としては社員が多いので、行くたび違う人に会ううちに顔見知りも増えた。
「なんで昨日は来なかったの?」
「こんな話があるんだけど、いい商品あるかな?」
だんだんとこんな声もかかるようになった。
「最初は売り込めるだけの知識もないので、御用聞きから始めました。新人だから、これを聞いたら恥ずかしいということもないと思って、この商品はどんなユーザー様が使うのですか、そのユーザー様は何を作っているのですか、と率直に尋ねて、しょうがないなあと言われながら教えてもらう感じでした」
その後、支店に戻ると、どんな商品が提案できるのか先輩に相談に乗ってもらった。今思うと見当違いの提案もしたが、やるしかないという思いだったので勢いだけはあった。
担当となってから1年余り、その機械工具商からの売上は30パーセントアップになっていた。まだまだいけると手応えを感じていたが、ある日、本間は1人会議室に呼ばれて支店長から「大阪本社の経営企画課に異動になる」と告げられた。入社して間もなく4年目を迎えようとしていた。
支店を離れるときは、担当していた得意先の社員の方々が送別会を開いてくれた。「これからじゃないの。どうして異動しちゃうの」と惜しまれながらの転勤だった。
⇒〈その3〉へ続く