商社の仕事人(27)その4

2017年07月13日

岩谷産業 近藤功茂

 

エネルギービジネスで、

〝点〟から〝面〟への戦略を

展開する

 

営業に転向して3年目、正念場の液化天然ガスプロジェクト

上司はそんな近藤の奮闘をよく見ていた。営業となって2年後の2006年4月、本社営業室の天然ガス部に異動する辞令が下る。新たに与えられたミッションは、滋賀県で都市ガスとして天然ガスを供給する「LNGサテライト基地」の建設プロジェクトへの参加だ。

プロジェクトの目的は、滋賀県のあるエリアを中心に、約20社の工場からなる工業団地および一般家庭・小口業務用まで天然ガスを供給するインフラを整備すること。これまで大手都市ガス会社が進出できないエリアに、規制緩和を背景に立ち上げた前例のない画期的なプロジェクトだ。エリア内の大小さまざまな事業者を説得し、計画への同意を取りつける役割の一端が近藤に委ねられた。

プロジェクトが始動した当時、工業団地ではすでに約20の工場が稼働していた。サテライト基地を建てても、この工業団地の工場が天然ガスを使ってくれなければプロジェクトが成り立たない。また3000戸に上る一般家庭、さらに小口業務用でも、1軒ごとの同意書が必要だった。

このハードルをクリアするため、近藤は約1年にわたってエリア内を駆け回る。ハードなスポーツで培ったタフさが、広大なエリアで存分に発揮された。

もちろん交渉は一筋縄ではいかない。

「燃料を天然ガスに切り替えるということですか? 当社のボイラーはまだ順調に稼働している状況で、ちょっとどういうことか分かりかねるのですが…」

「費用や補償はどうなるの。こっちも商売だからね」

工場の対応は容赦ない。石油を燃料に使っているところは当然、設備を天然ガス用に替える必要がある。すでに完成されているシステムを変えましょうという提案に対し、各工場責任者の腰は重い。だがそれも想定内の反応だった。

あらかじめ工業団地に入居する大口需要家の工場についてそれぞれの燃料状況を調査し、それに基づいて1つひとつ交渉のシナリオを作成。サテライト供給により天然ガスに切り替えることで、どれだけコストを下げられ、環境負荷を減らせるのか。それぞれの相手ごとに投資計画を立ててプレゼンテーションを行っていった。バイタリティだけではないこうした理詰めの綿密な説得が、近藤の真骨頂だ。

「たいてい最初は『何を言ってるんだ』という反応ですよね。投資負担は小さくないですし、投資を始めてから供給開始まで2年近くかかる。そんな先の約束をお願いするわけですから、同意を得るのは容易ではありません」

足繁く訪問し担当者との信頼関係を構築し、綿密な調査に基づいて抜かりなくメリットをアピール――。そんな労を惜しまないプレゼンテーションからにじみ出る近藤の信念と責任感が、1年がかりで相手先担当者の心を動かしていった。

「先日お伺いした件、全て調べて資料にまとめてきました。お客様の場合の設備と使用状況ですと、この機器に交換することで年間これだけの経費削減になる計算です。メンテナンスも保証済みですから、ぜひご決断いただけませんか」

小口の事業者相手でも、突破口になるのはやはり綿密なプランニングだ。責任を持って導入のメリットを説明する真摯な努力が相手先に伝わり、信頼感につながっていく。

「近藤さん、わかったよ。やってみよう」

初の取り組みとなった天然ガスのサテライト基地供給は、こうした地道な営業活動の連続であった。

⇒〈その5〉へ続く

 


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