長瀬産業 逸見太一
伝統ある「化学品専門商社」の
信頼と知見を武器に、
海外への飛躍を目指す
【略歴】
1981年奈良県出身。京都大学大学院農学研究科・農学専攻修了。2006年入社。就職活動では「多くの企業が見られるいい機会」と考え、関心を持った業界に片端から応募したという。
40社を相手に年間合計20億円の取引を担当
「先日納めてもらった顔料なんですが、異物が混入していると工場から連絡がありました。どうなっているんですか。大至急代わりの製品を手配してください!」
出社早々、逸見太一の元へ顧客から緊急の電話が届く。長瀬産業に入社して2年目の2007年、逸見がスイスの顔料・添加剤メーカーの代理店業務にあたっていた時のことだ。
担当するサプライヤーの数は入社当初の約10社から、1年で40社近くにまで拡大。総売上にして20億円、取扱商品の種類も膨大な数に上っていた。
注文と納入の手続きを所定の条件にしたがって処理するのは、担当営業ならできてあたり前。だが取引件数が多いだけに、事前の手配が万全でも日々どこかで何かが起こる。輸入品の入荷遅延、値上げ交渉、メーカーの生産地変更、そして製品の不良やロットぶれといった顧客からのクレームがそうだ。
顔料の異物混入も、そんな起こり得る事態の一つ。だが緊迫度はほかと違う。納めた全量が使い物にならないため、即座に全てを異物混入のないものと交換しなくてはいけないからだ。
京都大学大学院出身の逸見は、バイオテクノロジーを研究した理系のエキスパート。商社の営業パーソンとしても、周到綿密に頭を働かせて事態を収拾する理知的な姿勢が持ち味だ。だが異物のせいで所定の生産に取りかかれないという顧客のクレームには、額にうっすら汗もにじむ。
「確かに異物が入っていますね。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。至急全量を交換する手配を行い、結果をご報告します」
担当営業の逸見は連絡を受けると、埼玉にある顧客の生産現場へ急行。緊張した空気のなか異物混入を自分の目で確かめると、その場で現物交換の判断を下す。
すぐ希望通りの在庫が確保できる保証はない。急いでスイスの顔料メーカーに製品を手配するが、案の定在庫不足で全量の確保はできないとの回答。次は顔料メーカーが出荷した同じ製品の行方を追って、国内から海外へとやり取りの網を広げる。長瀬産業の海外現地法人を始めとする各地の出荷先に声をかけ、すぐには使わない在庫を一時的に融通してもらえないか交渉する。逸見の多くの引き出しが総動員を告げている。
⇒〈その2〉へ続く