長瀬産業 逸見太一
伝統ある「化学品専門商社」の
信頼と知見を武器に、
海外への飛躍を目指す
ルーティンを安定的にこなしつつ新規開拓でも成果を追求
「日本の未来に貢献できる仕事がしたい」。
早くから理系への関心とともに、漠然とこうした思いを抱いていた逸見。そこから大学進学にあたって「食糧自給率」というテーマを見出し、京大農学部の大学院で研究者への道を歩み始める。
その彼が研究室を飛び出して営業という新しい進路を選んだのは、「より大きな舞台で活躍したい」という欲求からだ。就職活動では商社からマスコミまで関心のある分野を片端から回り、幅広い業界で就活生同士のネットワークも築いた。そうしたなかで逸見の志望は3点に絞られていく。「理系の経験を生かせる」「海外を飛び回って仕事ができる」、そして「日本の未来に貢献できる」仕事だ。
サプライヤーと消費財メーカーの間に立つ化学品専門商社の実像は、一般消費者の目からは見えにくい。逸見自身にとっても長瀬産業は、それまで意識にない存在だった。だがエレクトロニクスから食品まであらゆる分野で日本の産業を支えるその存在感が、就活に打ち込む逸見のなかで大きく膨らんでいく。「3つの思いを仕事として形にできるのはここしかない」
これがあらゆる業界を回った逸見の結論だった。
研修を経て代理店業務の担当を任された商材は、インキ、塗料、樹脂コンパウンドなど。最終製品そのものや印刷材料の「色」、また液晶ディスプレイなどの「光」を形にする上で欠かせない原材料だ。それだけに用途が多岐に及ぶ上、ユーザ、商材、用途の組み合わせから大きなビジネスが新しく生まれる可能性も秘めている。
やがて2年目を迎えて40社近くを担当しつつ、次々と持ち上がる不測の事態も抜かりなく処理する日々が続く。だが商社パーソンとしてこうした受発注を無事にこなしていくのは、あくまで守りの部分だ。そこから一歩進んで新規ビジネスを開拓していかなければ、生き残っていくことはできない。
いっぽう逸見も多忙ながら決して無理はせず、キャパシティに余裕は持ち続けていた。そんな安定感の上に立ちながら、逸見もルーティン業務と並行して新規開拓に取り組んでいく。
彼はそこで将来性を秘めた担当企業の1社に注目する。スマートフォンや家電などのエレクトロニクス分野、また自動車の電子部品などに使われる印刷材料に特化した中堅インキメーカーだ。
「その顧客は伸びている有望市場に特化していながら、うちとの取引はまだわずかでした。ですから当社にとって伸びしろがあったのはもちろんですが、自分なりに調査しながら、それ以上にその会社が飛躍的に大きなユーザとして成長する可能性を確信したんです」。
先輩からその顧客を引き継いだ逸見は、まだ入社2年目。取引が少なかったこともあり、先方も新しい若手の担当にさほど大きな期待はなかった。だが逸見にとってはそれが逆に、自分なりの営業スタイルを自在に発揮して取引を育てる格好のチャンスとなる。
⇒〈その4〉へ続く