長瀬産業 逸見太一
伝統ある「化学品専門商社」の
信頼と知見を武器に、
海外への飛躍を目指す
夥しい取引をこなしながら「安定供給」の責任を果たす
逸見の納入先は顔料を元に塗料を作るメーカー。その先で塗料を待っているのは、日本を代表する大手家電・自動車メーカーなどだ。車のボディカラーなど製品イメージや機能を決定づける色の素=顔料は、決まったメーカーの同じ製品を使わないと色が合わなくなる。つまり他社の製品で流用できないため、逸見のところで納入が滞ると川下の家電や自動車の製造もストップしかねない。
もし必要な量の顔料を確保できなければ、上司ともども頭を下げて顧客に生産計画の見直しを願い出ることになる。だがこれは原料の安定供給に責任を負う逸見にとって、万策尽きた上での最後の選択肢。「自分が原料を納入している顧客の生産ラインを決して止めない」。これが先輩から顧客を引き継いだ逸見が自分に課している最低限の責任だ。
「こちらに所定の分量を融通してもらうことは可能ですか? えっ本当ですか。ありがとうございます。では早速、発送と納入の手順を確認したいのですが…」
幸い逸見が探している顔料は、アメリカの現地法人がスイスの顔料メーカーから輸入した在庫を持っていることが判明。国際電話でやり取りしながら、航空便で急送する段取りを整えた。
通常であれば顧客に詳細を報告してようやく一段落――となるところだが、異物混入のフォローはまだ終わらない。同じ製造ロット番号の製品全てに異物混入の疑いがあるので、クレームがあった以外の顧客も1社残らずチェックする必要があるからだ。もちろん約40社に及ぶ顧客との膨大な取引を管理しながら、逸見はこうした一連の作業を着実にこなす日々を送っていた。
⇒〈その3〉へ続く