商社の仕事人(28)その5

2017年07月21日

長瀬産業 逸見太一

 

伝統ある「化学品専門商社」の

信頼と知見を武器に、

海外への飛躍を目指す

 

化学品専門商社ならではの「知的な営業」で海外進出を伺う

就活では理系のスキルを生かす仕事も志向していた逸見だが、「大学で学んだ理系の知識が仕事の場で直接役立つことはありません」と言う。だがより普遍的な意味では、やはりロジックで知的な営業姿勢が強力な武器となる。多様な原料、素材、そして加工技術を扱う化学品専門商社では、それらを各市場のユーザやグループ企業などと組み合わせて新たなビジネスを作り出す作業が欠かせないからだ。

逸見が現在所属する「加飾・新規事業推進室」の「新規事業チーム」で取り組んでいるのも、まさにそうした新規開発プロジェクト。営業としてこれまで担当してきたユーザをいったん全て手放し、全く新しいビジネスを開発するのが使命だ。売り込む先もこれまでの塗料メーカーのような中間の会社ではなく、最終製品を製造する川下のメーカーをターゲットとして開拓する任務を負っている。

「扱う化学品の特性から市場予測、特許などの法務まで、単なる売った買ったの商売ではない多様な知見を総動員するビジネス開発のスキルが求められます。そしてこれらの商材、ビジネスを最終的に市場と結びつけて形にするのが、今まで培った営業パーソンとしての手腕。長瀬産業という長年の信頼を誇る化学専門商社だからこそチャレンジ可能な世界であり、ほかでは得られないやりがいを感じています」

実際に逸見のチームが展開しているのは、化粧品事業。日系パートナー企業各社と協力関係を築いて独自の製品を作るOEM体制を確立し、完成品を内外のトップブランドを通じて販売するビジネスだ。

そこで長瀬産業にとって切り札となるのが、「顔料分散」のノウハウ。これは微細な顔料のパウダーが「だま状」に固まるのを防ぎ、粒子のままで安定した状態を保つようにするハイテク技術だ。逸見たちは化学品業界でその進んだ技術を保有する企業をパートナーに、従来の化粧品業界になかった商品展開を次々と提案している。実際に逸見が手がけた製品の一例が、ナノサイズの酸化チタン微粒子を分散させることで実現する高い紫外線遮蔽能力を持ったサンスクリーン。有害性が指摘される有機系の紫外線吸収剤を使わずに済むため、赤ん坊など肌が敏感な人でも使えるといった付加価値を生み出している。

さらにこの化粧品事業を通じて逸見が狙っているのが、海外進出だ。国内は化粧品市場もほぼ横ばいであり、成長を目指すならアジア、ブラジルといった伸びている国々への進出が欠かせない。逸見はすでに中国で半年のビジネス研修を兼ねたマーケティングを行い、東南アジアなどへの展開も視野に入れた動きを始めている。そこで競合するのは、成長著しい中国をはじめとする世界各地の新興プレイヤーたち。

「化粧品の分野は技術変革が激しく本当に面白いです。また日本が世界をリードしている面も多く、やりがいも感じますね。自信を持って世界中に広げていきたいと思っています」

日本メーカーが優位に立つ「顔料分散」の技術をバネに、逸見は大きな勝算を掴みとるつもりだ。

 

学生へのメッセージ

「就職活動は自分が将来どう生きるのか、どう社会に貢献するのか、本気で自分と向き合ういい機会。先入観を持たずに自らすすんで動き回り、時には楽しみながら、社会を幅広く見てほしいですね。その上で『仕事への憧れ』と『直感』を頼りに最終的な決断を下すのが、会社選びの決め手になるでしょう。長瀬産業を取り巻く業界は、自動車、エレクトロニクス、食品、化粧品、エネルギーなど多種多様。そこで何でもやってやるぞという好奇心と意気込みを持った人が、当社にはたくさんいます。そんな意気込みさえあれば、営業力、情報力、グループ力を駆使してグローバルな活躍ができるのが当社の面白さです」

 

逸見太一(へんみ・たいち)

1981年奈良県出身。京都大学大学院農学研究科・農学専攻修了。2006年入社。就職活動では「多くの企業が見られるいい機会」と考え、関心を持った業界に片端から応募したという。「無数の業界を回ってほかの就活生とも情報や意見を交換し合ううち、自分の志望がより具体的に固まっていった」と振り返る。そこで知り合った各業界の親友とは、現在も連絡を取り合う仲だ。

 

『商社』2017年度版より転載。記事内容は2015年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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