商社の仕事人(28)その4

2017年07月20日

長瀬産業 逸見太一

 

伝統ある「化学品専門商社」の

信頼と知見を武器に、

海外への飛躍を目指す

 

自ら確立した営業スタイルで顧客を大手ユーザに成長させる

「先日お話をうかがった件で、当社で扱っている新しい帯電防止剤の資料をまとめてきました。よろしければ検討に加えてみていただけませんか?」

自ら将来性に注目した顧客との取引を、重点的な営業で伸ばしていく決心をした逸見。そこで彼が最も重きを置いたのが、人と人との関係作りだった。長瀬産業は取り扱う商材や商圏において、すでに十分な強みを有している。その上で顧客との取引を広げるためには、まず自分が担当営業として信頼を勝ち取ることが不可欠と見抜いたわけだ。

逸見はまず足繁く通った。泥臭い商社営業の基本だ。相手方の購買、技術、営業を頻繁に訪れて話を聞き、要望や疑問を引き出す。そして必ず100%以上の回答を心がけ、早め早めのタイミングでレスポンスを返していった。

どんなに小さくて軽い口約束でも決しておろそかにせず、誠意を尽くして結果を出す。こうした正直で真摯な対応が企業間の信頼関係を作り出し、ビジネスを支えている――。逸見は入社後すぐ多くの顧客を担当しながら信頼関係の重要性を学び、さらに実践する上で何が必要かといったことを体得していった。

「人と人との関係があってビジネスが成り立つとよく言いますが、学生の時は正直あまり実感がありませんでした。それを強く実感したのは、入社後の実体験を通じてです。そして2年目を迎えて重点的に取り組んだこの顧客に対しても、自ら培ったこの心構えを自分の営業スタイルとして徹底していきました」

とりわけ取引において大きな決定権を持っていたのが、購買の担当者。逸見にとっては父親ほども年齢の離れた相手だ。当初は逸見の提案にもさほど反応はなかったが、粘り強い訪問を重ねていくうちに自然と打ち解け、チャンスが開けてきた。

「うちで使っているこの添加剤なんだが、いつも頼んでいる商社がちょうど在庫を切らしていると言うんだよ。逸見さんのところですぐに用意できるかい?」

何をどこからどれだけ仕入れているかといった内部情報は、普通は滅多に教えてもらえない。逸見は購買担当者の言葉に「ようやく自分の営業が認められた」という確かな手応えを噛み締めながら、それまで通り真摯かつ誠実なレスポンスに努めた。

もちろん状況に応じてうまく調達できる場合もあれば、できない場合もある。だが逸見が一貫して真摯な営業スタイルを徹底していくうち、少しずつ階段を上るように取引の件数や数量が拡大。3年に及ぶ積み重ねの結果、逸見が育てた顧客は数億円規模の大手ユーザに成長していった。

逸見にとってとりわけ印象深いのは、輸入品原料を新しく調達する仕組み作りを任されたことだ。品質管理、リードタイム、在庫場所、価格などの諸要件を全て逸見が地ならしし、ユーザが安心して購入できるサプライチェーン体制を作り上げた。顧客にとっては未知数の部分もあったが、そこを補完したのも逸見が築いてきた信頼関係だ。

「こちらの説得に対して、最後は『逸見さんがそう言うなら』と任せてもらえました。その言葉を聞いた瞬間は、飛び上がりたいほどうれしかったですね」

⇒〈その5〉へ続く

 


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