トラスコ中山 中西陽子
どんな仕事でも、
わくわくする気持ちを忘れずに
顧客からのひとことでスランプを脱出できた
1年半後に中西はSSLになった。訪問先はほとんどが機械工具商など、日々、モノづくり現場に出入りしている販売店様である。トラスコ中山は、その販売店様を通じてモノづくり現場にプロツールを供給している。
工作機械や機械工具の業界というとかつては男性社会だったが、今では女性の営業担当も徐々に増えてきている。トラスコ中山も中西の同期約40名の半分が女性で、最近ではむしろ女性の採用の比率が高くなっている。また、男女関係なく全員がSSPとSSLを経験する。名古屋支店でも中西の前にすでに女性のSSLがいた。
「それでもまだ女性の営業は珍しかったので、中には戸惑う販売店様もいらっしゃいました。本当に頼んで大丈夫だろうかと心配だったようです。でも何回か通って普通に話しかけていれば、そこは同じ人間ですから、違和感はだんだんとなくなっていきます。どれだけ近い関係になれるかが営業では一番大事ですが、その点では私はあまり苦労しませんでした」
売上の予算(ノルマ)に届かないときは支店長や先輩に協力してもらい、商談の進め方や商品知識についても教わることが多かった。また、逆に販売店様から教わることも多かったという。
3か月ほど過ぎるとSSLにも慣れてきた。だが、そんななかでも営業に出るのが怖くなったときがある。
「何か提案するものがなければ訪問できないと自分で自分を追い込んで、だんだんと足が遠のいてしまいました。予算がクリアできないし、セールストークもうまくできていないんじゃないかと悪いほうにばかり考えて、今振り返ればスランプだったと思います。売上が落ちてもどう回復しようかと策を練ればむしろそれを楽しむ気持ちになることもできるのですが、その時は身動きが取れなくなって、どうしようとばかり思っていました」
立ち直るきっかけになったのは、懇意にしていた販売店様がかけてくれた一言だった。
「最近来ないけどどうしたの。中西さんは用事がなくても、私たちは用事があるから来てよ」
そうか、お客様に会いに行くことに意味があるんだ。そう気づくと、意外なほどあっさりとスランプから脱出することができた。
あるとき、倉庫を事務所に改装するので什器一式をトラスコ中山に揃えてほしいと販売店様から注文があった。通常はユーザー様のところまで行くことはほとんどないが、このときは販売店様と一緒に現地まで行って納品にも立ち会った。
「売上額が大きかったこともあり、見ていてわくわくしました。辛い思いをすることもあるけれど、楽しいことも経験したからSSLを続けることができました」と中西は名古屋支店で過ごした日々を振り返る。
「当社のベースとなる売上は流れ品(リピート商品)ですが、その明細は毎日チェックしてお客様に個別に声をかけていました。通常の流れ品のほかに金額の大きな見積もりを出したときは、ペアを組んでいるSSPに毎朝こんなフォローをしておいてねと頼みました。そんなふうにきめ細かく対応していくうちに、パイプがだんだんとできていきました」
⇒〈その3〉へ続く