商社の仕事人(32)その4

2017年08月24日

岡谷鋼機 佐藤浩之

 

ものを売るだけでなく、

製造も人材育成も

グローバルに展開できる

 

世界中で発生した〝事件〟を大きなチャンスに変える

タイ滞在中に最も記憶に残る〝事件〟が起きたのは、パタヤ工場に移る前の2006年のことである。タイの自動車工場からは、世界各地に向けてピックアップトラックが送り出されていた。そのトラックに搭載されている、UAMでメッキをした製品の一部がいっせいに変色を起こしたのだ。アルゼンチンで起きたと思えば、アフリカのどこかでピカピカだったのが紫色になってしまったと報告が入る。その原因はUAMでメッキ処理した三価クロムの皮膜にあった。

「一般的にメッキは六価クロムが扱いやすいのですが、毒性が強く、発ガン性もあるために今では三価クロムが使われています。その三価クロムを自動車で最も早い時期に導入したのがタイでした。日系のメッキ業者としてはUAMがおそらく第1号だと思います。仕様書通りにメッキ液に浸けて乾燥させたところ、色もきれいに出て、塩水噴霧試験もパスし耐蝕性も問題ありませんでした。ところが2か月後、世界各地で次々にタイムリミットを迎えた時限爆弾のように変色が発生し、そのつど自動車会社の事務所に呼ばれました。バンコクの家に帰っても、夜中に電話がかかってきて、なんで寝てるんだ、こっちは必死に対応しているんだぞと怒鳴られました」

工場の研究室に泊まり込みでタイ人の技術者のリーダーとテストを繰り返して、変色する理由をようやく突き止めた。三価クロムは六価クロムよりも固まるのに時間がかかり、その間に空気中の水分を吸ってしまいやすい。するとその後も化学反応が続き、やがて色が変わってしまうのだ。

このメカニズムを論文にして発表したところ、世界最新の報告として学術誌に掲載された。三価クロムメッキの加工工程を変える新発見となったのである。幸いにも三価クロムの変色は耐食性に問題はなく、むしろ三価クロムメッキの特性を発見した事で自動車会社からの信用も戻り、取引が拡大する結果となった。

「笑い話のようですが、サムットプラカーン工場ではそれまでメッキ液に浸けた後で焚き火を使って乾燥していました。六価クロムだとそれでもよかったのですが、ものを燃焼させれば水分も発生しますから、三価クロムのメッキ膜が水分を含んでしまったのです。そこでパタヤ工場では乾燥した空気を当てて乾かす方式に切り換えました。このとき一緒に苦労した技術者とは今でも大変仲が良く、会う度に決まってこの頃の苦労話に花が咲きますが、当時私は胃カメラを3回飲んだほどで、本当に大変でした」

⇒〈その5〉へ続く

 


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