商社の仕事人(33)その5

2017年09月8日

岩谷産業 伊藤俊輔

 

「自分の本当の立ち位置」

を見据えながら、

海外との緊密な関係を築く

 

「本当の立ち位置」を見据えつつ新たな世界にチャレンジ

約4年のシンガポール駐在を終えて帰国した伊藤は、東京本社での調達業務に取り組んでいる。そしていまその眼前にあるのが、冒頭でふれたシェールガスだ。

「LPガスのマーケットはこれまで中東主導でした。サウジアラビアが毎月1回通告する価格に基づいて、各国の仕入れ価格が決まっていたんです。しかし通告される価格は長期的に上昇傾向にあり、結果的にほかのエネルギーに対するLPガスの競争力は下がり続けています。そこへアメリカが新しい産ガス国として登場したことで、市場の構造ががらりと変わってしまうかも知れない。その意味で当社を含め、業界全体が非常に大きな期待を寄せているのはいうまでもありません」

だが実際にこれからどうなるかという見通しは、まだ手探りの状態。ガス自体の価格からして、どのような水準で中東と競争していくのかも予想がつかない。またその輸送体制とコストがどう推移するかによって、供給する市場も変わり得る。

入社から一貫して海外を目指していた伊藤がいま見ているのは、アメリカ・ヒューストンだ。

「ヒューストンはアメリカのLPガス輸出の拠点ですから、世界中のLPガストレーダーが集まって来るでしょう。これから数年の間にトレーディングの中心として、どんどん発展していくはずです。そうしたなかに身を置くことができれば、非常に刺激的で面白いでしょうね」

新しいビジネスに情熱を燃やす伊藤。実はその彼が仕事とは別に、打ち込んできたものがある。

「海外に駐在する日本人ビジネスマンで作るラグビーチームがあるんです。シンガポール、バンコク、ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、北京、上海…。それぞれの都市を代表するチームが年に1度、中国で大会をするんですよ。みんなその大会を『アジアンカップ』と呼んでいました。私はシンガポールチームのバックスで、駐在していた最後の2年間は続けて優勝したんですよ」

平均年齢40歳ほどの一流企業ビジネスマンが休日に集まって、赤道直下のピッチでスクラムを組み、走り回る。もちろんビジネスと同様、ラグビーも真剣勝負だ。

「そうしてともに汗を流しながら、同時に横のつながりも生まれるわけです。帰国してからも、あの時どこそこのチームにいたと言えば話が通じる。実際に当時アジアでラグビーをしていた人たちが、いま国内のエネルギー業界にもいます。ラグビーに限らずそうした横のつながりは、会社のなかだけでは分からない、広い視野を与えてくれる。そしてそこから、自分の本当の立ち位置が見えてくるんです」

世界を股にかけた「横のつながり」で、自分の足場をいっそう踏み固める伊藤。新しいエネルギー市場を開拓するチャレンジがいよいよ動き出している。

 

学生へのメッセージ

「学生のみなさんに伝えたいのは、常に10年後の自分をイメージしてほしいということ。その会社に入ったとして、10年後の『かっこいい自分』が思い描けるかどうか。それがイメージできる会社を選んで、入った後も10年後の自分を目指していく。そうすれば日々のモチベーションも高まるし、結果的に最短距離で突き進んでいけると思います。また当社について言いたいのは、『現場主義』ということ。新人だからと甘やかすことなく、いきなり現場へ放り出されます。楽ではありませんが、結局それが本人にとっても一番成長が早いし、上司、先輩もしっかりフォローしてくれている。そうした環境でスキルアップしていけるのが、当社の特色といえるでしょう。そして最終的には会社の枠にとらわれず、一人の人間として自分を高めていく。私はそれを目標にしながらいまもビジネスに取り組んでいます」

 

伊藤 俊輔(いとう・しゅんすけ)

【略歴】
1975年大分県生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)中国語専攻。2000年入社。大学3年の時に1年間留学した中国・南京では、各地の史跡を巡って見聞を広めた。

 

『商社』2015年度版より転載。記事内容は2013年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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