商社の仕事人(34)その2

2017年09月19日

ユアサ商事 菅沼知彦

 

転勤のたびに経験を重ねて

新しい商売を身につけていく

 

 

雪で通行止めになっても通い続けた

金沢市内に、地元では比較的規模の大きい工作機械のディーラーがある。ここに菅沼は月、水、金と毎週3回休むことなく足を運んだ。

夕方の5時になると、エンドユーザーを訪問したディーラーの営業担当者が戻ってきて見積書を作成したり、発注事務を始める。菅沼にとっては、ここからが商談相手に会えるゴールデンタイムである。小額の取引ばかりで、見積依頼や発注などがない日の方が多い。それでも展示会の案内や新製品の紹介をし続けた。商談のネタがないときは雑談しかできないが、何か頼まれれば、注文に結びつかなくてもすぐに応えて動いた。顔を出し続け、声をかけ続けていると、ディーラーの社員たちの態度もだんだんと打ち解けてくるのが分かった。

通い出して3か月ほど経ったある日、冬の曇り空から雪が舞い始めたかと思うとたちまち吹雪になった。高速道路はすぐに通行止めになり、1時間で着くはずの道を一般道路に下りて峠を越えて行かなければならなくなった。しかも雪の中を走るから3時間はかかる。

もしかしたら、と思った金沢のディーラーから菅沼の携帯に連絡が入った。

「今、向かっているの? 今日は危ないから来なくていいよ」

「いえ、いつもより遅くなってしまいますが、必ずうかがいます」

着いたのは夜8時半になったが、親しい営業担当者が何人か残っていてくれた。

「こんな日に無理しなくてもと言ってもらいました。それから飲みに誘われるという展開もなく、いつも通りに話をしてすぐに帰りましたが(笑)。でもこのときから目に見えて仕事が増えました。当日は大変でしたが、あれが効果があったんだなと後になって思いました。もちろんこのことだけでなく、その前から当社はなんでも取り扱いできますよと、取扱商品について資料を作成して案内していました」

ユアサ商事では機電部門で工作機械から消耗品まで幅広く提供し、さらに建材部門など他部門からも多様な商品を調達できる。しかも長い歴史に裏打ちされた調達力がある。発注する側としては、複数の商品を一括して任せられるので手間が省ける。ユアサ商事という看板がここで生きてくる。

その後このディーラーは、ほかの商社が扱っていた商品を次々に菅沼に注文してくれた。取引額は年間6000万円近くになり、菅沼が来る前の十倍以上に伸びた。

「当時の上司は北陸に長くいたので人脈もありましたが、その強みや経験を私が真似できるわけがありません。結局は自分でなんとかするしかありませんでした。そのうちに私の方が予算額が多くなり、機電本部のエリア会議に私が出るようになりました。大切なのは、人に頼らずに自分でやってみることだということが体感できました。大きい拠点にいたら人に頼ってしまい、ここまでの自立心は育たなかったかもしれません。若いうちに経験できてよかったのですが、10年では長過ぎます。2年半で次のチャンスを得たので良い思い出になっています(笑)」

⇒〈その3〉へ続く

 


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