商社の仕事人(34)その5

2017年09月22日

ユアサ商事 菅沼知彦

 

転勤のたびに経験を重ねて

新しい商売を身につけていく

 

 

現場を知らないとできないダイレクトセールス

中国から日本に戻ると、今度は関連会社のユアサテクノへの出向が待っていた。配属先は中部支店になった。

ユアサテクノでは、顧客はディーラーではなくエンドユーザー(大手製造業者)になる。ディーラーが間に入っていれば、ユアサ商事は黒子に徹することになる。つまり仕事の中心となるのは金額の折衝や納期管理などだった。しかしユアサテクノではそれだけでなく、エンドユーザーの細かい要望に応えることも求められる。現場の状況やニーズが理解できなければ、エンドユーザーはもちろん、メーカーに対して話もできない。

「名古屋地区ではやはり自動車関係のエンドユーザーが多いですが、自動車のエンジンひとつにしても、まず部品の構成や構造を把握していなければ仕事になりません。その上で、部品を削りだしたいとの要望であれば、加工品の材質、要求精度、加工時間なども聞き出し、より最適な機械を即答できるのがユアサテクノの社員です。私も自分なりに勉強はしてきたのですが、レベルが違うなと感じました」

工作機械のラインナップ、価格、能力、納期などはもちろん、各種の加工方法や材質による使い分けなど、広く深い知識が求められる。

「インドネシアやタイなど海外に納入する案件が多く、駐在事務所や現地法人と情報をやりとりする機会が日常的にあります。現地まで行くこともあり、海外と接する機会はユアサグループの中でも多い方でしょう。製造業のますますの海外進出を実感していますが、国内の案件が海外に比べてあまりに少ないので、日本のものづくりは大丈夫なのかなと気になります(笑)」

2か所の営業拠点でルートセールスをして、海外で新規開拓を経験し、ユアサテクノでは本格的にエンドユーザーへの売り込みをしている。ユアサ商事の中でも転勤は多い方だ。菅沼はそれを前向きにとらえている。

「人間関係も環境も変わるので、転勤は確かにストレスも伴います。でも同じところにいるのが楽になってきたら、自分に負荷をかけるぐらいでないと。まずはユアサテクノのほかの人に追いつかないといけませんが、その次は人事や企画のような管理部門の仕事もしたいですね。そこで勉強することが、自分の能力をまた向上させてくれるはずです」

変化は成長する機会にもなる。だから変化する機会が見つかれば自ら飛び込んでいく。そのようにしてキャリアを積んでいくのが、菅沼の流儀なのである。

 

学生へのメッセージ

「日本人が誰も行かないようなトルコの片田舎でしたが、そこでも日本製のポンプが使われているのを見て、日本の機械はここまで来ているのかと感動しました。海外で仕事をしたかったので商社を志望しましたが、留学していたので就職活動には乗り遅れました。だから就職活動についてアドバイスできる立場ではないのですが、なるべくたくさんの企業を確かめた上で選択をしていくのがいいと思います。仕事をするようになって、量からしか質は生まれないと痛感しています。若いうちによく働いて多くの経験をすれば、アウトプットできるものが増えます。仕事も就職活動も、思っていたことと現実とのギャップは必ず生まれます。そのときに、やるだけのことはやったと納得できるのなら、後悔をしなくても済むでしょう」

 

菅沼 知彦(すがぬま・ともひこ)

【略歴】
1983年長野県生まれ。専修大学法学部法律学科卒業。2006年入社。大学を1年間休学してフランスに留学し、その途中でトルコに行って地震の被災地で復興のボランティア活動を行う。

 

『商社』2015年度版より転載。記事内容は2013年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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