商社の仕事人(34)その3

2017年09月20日

ユアサ商事 菅沼知彦

 

転勤のたびに経験を重ねて

新しい商売を身につけていく

 

 

「エース」と言われた課長の顧客を引き継ぐ

その次の赴任先は神戸機電部だった。扱う商材はあまり変わらないが、エンドユーザーに重厚長大型企業が多いので使う機械も大型のものが増える。取引先は5社と少なくなったが、目標の予算額は増えた。前任者は社内でも「エース」と言われる課長で、15年前から取引先に食い込んで良好な関係を構築してきていた。

「優秀な人の後釜に入るのは不安もありましたが、抜擢されたという思いの方が強かったですね。ただユアサの担当者が若い奴に代わったというので、ほかの商社もここがチャンスとばかりに狙ってきます。なので、まずは取引額をキープすることを目標にしました」

前任者と関係が深かったディーラーの担当者は、15年の間でそれぞれ課長や部長に昇進していた。そこに新しくやってきた菅沼は、どうしても「エース」と比べられる。ところが部下の若手社員たちは、ユアサ商事の「エース」前任者に対しては遠慮が先に立ち、ものが言いにくかった。そのタガが外れた格好である。

「前任の課長と親しかったディーラーの人たちは、担当が若い私になって不安に思ったかもしれません。でも若い人たちは、私の方が気楽でやりやすくなったようで、いろいろ相談してきてくれました」

バリバリの優秀な営業担当から若手に代わるのも、悪いことばかりではなかったのだ。ディーラーの社長からも菅沼は高く評価された。

「菅沼君が来てから若い社員が勉強熱心になって、仕事もどんどん取ってくるようになったよ」

そこで菅沼は金額の大きい取引の成約に専念し始めた。定期的に来る注文などは内勤のスタッフが手際よくこなしてくれた。その結果、マシニングセンターと周辺機器を合わせて数千万円という大型の商談をまとめることができた。

最初は、エアコンの部品に特殊な形状の穴を空けるドリルを探しているからなんとかしてくれないかという話から始まった。

「分かりました。すぐ探します。ところで工作機械はどうするんですか?」

「この加工に合わせて新規に導入するんだ」

「では機械も含めてまるごとシステムで提案させてください」

まず工作機械を入れることが決まり、そのあとに必要な工具を選定していくというのが普通だが、このときは逆の順序で商談が進んでいった。

「ディーラーの担当者と信頼関係を築けていたので、エンドユーザーの現場の細かい情報も教えてもらって一緒に動き、当初は複数の商社から購入する予定だったものが、最終的には一括で受注することになりました。自社の強みを活かして、狙った結果を手にすることができたこの受注は、自分にとっても大きな成功体験になりました」

神戸では、取引額を増やすまではいかなかったが、「エース」が遺した財産を減らさずにキープするという目標はなんとか達成した。「当時はこなしていくだけで本当に大変だったんです」と菅沼は笑う。

マシニングセンターと周辺機器一式は、タイにある空調メーカーの協力工場に納められた。すべてが終わったのは次の転勤の直前、2012年2月だった。

⇒〈その4〉へ続く

 


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