稲畑産業 白井己裕
徹底した“現場主義”が、
ビジネスを大きく広げる
変化していった現場の態度
こうして問題は一段落し、ようやく無事に製品の納入が始まった。だが安堵したのもつかの間、納入開始から約1週間後にまた予期しないトラブルに見舞われる。
「製品は特殊なガラスに保護フィルムを貼った形なんですが、ガラスとフィルムの間に虫が入っていたんです。それもハチのようなサイズの虫まで、ぺちゃっとつぶれて……。知らせを受けてすぐ、上司と私の2人は納入先への説明に大わらわ。それでまた、『白井を中国へ行かせます』となったわけです」
2度目のトラブル対応で、また中国の工場へ戻った白井。だが今度は前回と違って、工場の門は開け放たれていた。
「その前までは部外者のような扱いで、向こうの担当者との関係もよくありませんでした。ですが虫の件でまた駆けつけた時は、かなり真摯な対応を引き出すことができた。その時は彼らも私に対して、申し訳ないという気持ちを持ってくれたようです」
スーツ姿で上からあれこれ指示を出すだけでなく、現場で一緒に汗を流しながら、互いに助け合ってトラブルをクリアしていこうとする白井。食事も工場の社員食堂で済ませ、お年寄りの労働者とも顔なじみになった。そんな白井の姿を見て、現場の対応もはっきりと変化していったわけだ。
虫の混入の件は現場での品質管理の徹底、さらにクリーンルームの増設などで対応。白井は約2週間の滞在を経て帰国、当初の生産ラインの問題も合わせてようやく安定したガラス板の納入が実現した。
こうして白井の上司が育ててきた太陽電池事業は、徐々に大きなビジネスへ成長。やがて白井の先輩も加わり、3人のチームで取り仕切るようになった。
⇒〈その5〉へ続く