商社の仕事人(37)その6

2017年11月4日

稲畑産業 白井己裕

 

徹底した“現場主義”が、

ビジネスを大きく広げる

 

 

新しい商材をきっかけに、新興市場へも乗り込む

「IHクッキングヒーターは震災後の電力不安でちょっと足踏みしましたが、ここに来てまた伸び始めています。導入初期に購入したお客様の買い替え需要がありますし、そもそも非常に便利な商品ですからね。業界全体としてこれからも成長が見込める分野だと思います」

商材にかける意気込みにともなって、白井が手がけるセラミックガラスは次々と製品化されていった。その第1号は、2012年にリリースされたキッチン備え付けのプレート。白井は住宅のショールームまで足を運び、自分のビジネスが形になったのを感慨深く見届けたという。そして2013年夏には、ホットプレートが小売店の店頭に並んだ。

「当社、特に私の部署では原材料を主に扱うので、小売店で自分が手がけた仕事の成果を実感するということはあまりないんです。それだけにホットプレートがどんどん出荷されて店頭に並んでいくのを見た時は、『やった!』という実感を噛み締めました」

IHクッキングヒーター用のセラミックガラスという新しい商材を通して、白井のビジネスにまた新しい世界が広がっている。かつて学生時代に訪れたヨーロッパ、そして南米という海外市場だ。中国で作った製品を納入する電機メーカーへのフォローとして、イタリアへもしばしば出張。そこからさらにヨーロッパへの展開も進めていくと同時に、新興市場である南米も視野に入ってきた。

「ちょうどこの間もイタリアでメーカーの社長と食事をしている時、南米進出を考えているという話が出ました。パートナーを見つけて南米に拠点を作りたい、と。それですぐ上司に電話して社長の意向を伝え、私も展示会について行くことになりました」

何がどうなるかは、まだ白紙の状態。だがとにかく何かないかと探し続けていれば、今度は南米発信で展開していけるかも知れない。そうした意気込みに燃えながら、白井は初めての南米へ発つ。

 

学生へのメッセージ

「家業を継ぐためか父は農業高校へ進みましたが、商いをやりたい夢があったようです。就職活動で私が商社に導かれたのも、それが心のどこかに引っかかっていたのかも知れません。就職活動では広告と商社しか受けませんでした。ですが、いざ就職してみると、もっといろんな会社を見ておけばよかったなあと痛感します。これほど色々な企業を見ることのできる機会もあまりありませんし、それは社会人になっても役に立ちますから。私がやってきた仕事は結局、周りに恵まれていたんでしょう。ただその都度タイミングよく結びつけることができただけで。やはり人と関わる運が大切なのではないでしょうか。ですから私が学生さんたちに伝えたいのは、自分に素直であるべきということ。仕事にかかわらず、自分のことを素直に話してこそ人との関係が生まれます。そういう関係ができれば、互いに困った時に助け合うこともできるでしょう。結局そういう人間関係が、何においても一番大事なのではないかと思います」

 

白井 己裕(しらい・きひろ)

【略歴】
1987年愛知県生まれ。関西大学経済学部卒。2010年入社。実家は豊橋市で大葉農家を営む。小学校から高校まではバスケットボールに打ち込んだ。大学時代はスポーツと距離を置くいっぽう、UKロックなどに傾倒してクラブ通いにも精を出した。

 

『商社』2015年度版より転載。記事内容は2013年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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