ユアサ商事 日野雄介
工作機械ビジネスの
新しいあり方を開拓する
「こんなしつこい若いやつは、今どきなかなかいない」
だが仕様打ち合わせをしたという日から2カ月ほど経っても、なんの連絡もなかった。
「そういえば、あの輸出案件どうなったかな」
気になり始めた頃に、販売店から連絡が来た。
「一体どうなってるんだ!」
あいさつ抜きで、いきなり電話口で怒鳴られた。
「お前、とんでもないのを紹介したな。あのメーカーの営業担当、ほかのやつに替えろ」
なだめながら、なんとか事情を聞き出した。すると、メーカーが今になって「できません」と言ってきたのだという。すぐにメーカーの担当者を呼んで、販売店に謝罪に行った。
「確かに難しい加工だったのですが、メーカーの営業担当が若手で知識が浅く、仕様打ち合わせではできますと返事してしまったのです。ところがメーカーの社内で検討したら別の機械でなければ無理だということになり、最初の見積もりよりも1000万円も高くなってしまったのです」
本来ならエンドユーザーにも頭を下げに行きたいが、それもできない。しかも工場建設は間近に迫っていて、納品までもう時間がない。
メーカーには担当者を替えてもらった。所長クラスで日野の倍ぐらいの歳の人だ。今度はベテランなので、日野がいくら急いでもなかなか動いてくれない。
「とにかく何度も電話して、電話に出なければメールやファックスを送り続けました。メーカーの新しい担当者もほかにも顧客を抱えていただろうし、相当うっとうしかったと思います。でも販売店やエンドユーザーになんとか誠意を示したいという一心でした」
ときには半ば無視されながらも、どうにかテストカットの日程を取ってもらった。実際にエンドユーザーが求める通りに加工できるかを確かめるために機械を動かしてみたのだ。結果は成功だった。1000万円値上がりするはずのところが、500万円で済むということになった。
件のメーカーのベテランの担当者からは「お前は本当にしつこいやつだな」と言われた。
「頭に来たけど、若いのにこれだけしつこいやつは今どきなかなかいない。粘り強いからなんとかしてやりたいという気持ちにもなるし、日野君から頼まれると断れないよ」
「心が折れそうになったときもありました。でも販売店とも、仕入れ先のメーカーとも、このときからはいい関係が続いています」
ところがこの案件には落ちがあった。エンドユーザーが工場を進出する話自体がなくなってしまったのだ。
「聞いたときは、なんだよ、と思いましたよ。間に入ってあれだけ怒鳴られまくって、メーカーの担当者まで替えたのに、契約なしか、と。でも海外の案件もできると自信がついたし、いろいろと勉強になったので、よくないことは忘れて次につなげようと思うことにしました」
⇒〈その4〉へ続く