阪和興業 村田勝彦
人が見過ごすところに
商機を見つけ、
世界を相手に実現させていく
ヨーロッパにも新規取引先を開拓
村田はインドなどアジアとの取引だけをしていたのではない。ヨーロッパへの輸出ルートも自ら開拓した。これは東京の線材特殊鋼国際課でも初めてのことだ。
「新しいことをやっていかないといけないというのは、たぶん阪和興業の社員みんなが思っていることです。欧州には事務所もありますが、線材はニッチな商売なので最初の突破口は自分で作るしかありません。インターネットで探したり、知り合いの線材加工メーカーに聞いたり、直接電話をかけたこともたくさんあります」
線材の中でもさらにニッチな材料で、たくさんの商品を持っている日本のメーカーがある。最初はその商品に絞って営業をかけた。線材を扱うのはヨーロッパでも小さいメーカーなので、英語圏以外だと英語も通じない。かけるとすぐにガチャンと電話を切られる。その中でイタリア人は「チャオ」と返事がかえってきて、話も聞いてくれる。最初の注文もイタリアの会社からだった。
「国民性が陽気なこともあると思いますが、実はイタリア以外は系列がしっかりしていて、なかなか入り込めません。ところがイタリアは基本的に独立系なので、仕入先を確保したがっているのです。統計を見ると、韓国や台湾からイタリアに結構な量のものが行っていることも分かっていました」
しかしヨーロッパまではやはり遠い。日本から送り出した商品が届くまで船便で1か月かかる。不利な分、取引先の手間が省けるような新しいしくみを村田は採り入れようとしている。
そのひとつがサーチャージで、原料価格が変動したら販売価格も自動的に変動するしくみだ。航空機の燃料代で使われているので名前は知られているが、これを導入することで価格交渉をし直す手間がいらなくなる。出荷時と到着時の価格の差額が発生することによるリスクも回避できる。販売先の近くに在庫を置いて、使った分だけ決済するというコンサイメントストック(預託在庫)も検討中だ。
「なにか人と違った商売をやっていかなければいけないな、と思っています。間に商社が入ることで、仕入先も販売先も楽になるしくみを提案するのが私たちの仕事です」
人が気づかないところに目をつけ、アクションを起こして実現させていく。国内から海外へと活躍の舞台を広げながら、村田はこれからもそのような商社の〝本分〟を追求していくに違いない。
学生へのメッセージ
「他の鉄鋼系や繊維系の商社にも行きましたが、阪和興業は社員が語ることが熱く、本当に商売が好きなんだと思いました。大きい会社では大きなプロジェクトの一部をやることになるけれども、ここでは1人ひとりが商売をしているな、と。入社してからは、インドでの経験など苦しいこともたくさんありました。でも考えてみると、海外に行きたいと思えば行ける仕事ができるのはありがたいことです。そんな環境を作ってくれている会社や上司に感謝しながら、仕事を楽しんでやっていきたいと思います。就職活動も、いろいろな会社が見られるいいチャンスですから、楽しみながら、やりたいことを見つけていってください」
村田勝彦(むらた・かつひこ)
1983年京都府生まれ。関西大学文学部卒業。2006年入社。阪和興業をめざした理由を「商社の中でも特に“商売”ができそうだったからです。海外の仕事をする機会が多いということもありました」と語る。
『商社』2014年度版より転載。記事内容は2012年取材当時のもの。
写真:葛西龍