商社の仕事人(50)その2

2018年03月20日

日立ハイテクノロジーズ 和波直樹

 

営業の最前線こそ

“商社は人”を実感する戦いの場

 

 

まずは仲良くなること、全てはそこから始まる

和波には守り続けている流儀がある。それは、決して功を焦らず、全てはしっかりとした人間関係を作ってから物事を進めるというものだ。商社のビジネスには、何よりもまず相手との間に信頼関係を築くことが大事だ、と和波は信じて疑わない。なぜなら、商社にとって一番の商品は「人」そのものだからだ。和波は、「まずは自分の方から胸襟を開き、とにかく相手に受け入れてもらい、仲良くなること」から始めることを常としている。

ホムトフでの最初の3か月間は「お手伝い」という役回りだったが、その流儀を曲げることはなかった。と言うのも、和波にはある強い思いがあったからだ。

「確かに、私は入社間もない研修生でしたが、工場の立ち上げに関わらせてもらえるということは、大きなビジネスチャンスだと思いました。だったら、せっかくのチャンスを無駄にしないで、自分を知ってもらい、信頼される環境を作りたいと思ったのです。その方が、仕事も格段に楽しくなりますから」

そうはいっても、コミュニケーションが取れなければ、気持ちだけから回りだ。簡単な挨拶や勘定ができるくらいのチェコ語は必死に覚えた。短期間で冗談も話せるようになり、現地の人たちを驚かせた。自分で旅行を企画し、顧客の人たちを誘って一緒に出掛けたりもした。また、仕事が終わった後に顧客と一緒にジムで汗を流すこともあった。2か月が過ぎた頃、今度は顧客側が和波を旅行に誘ってくれた。和波が望んでいた信頼関係ができ始めた証である。日本から来たこの若者を回りは少しずつ認めてくれたのだ。和波は、これでやっと同じ会社の仲間として仕事をしていけると確信した。

そのタイミングを見計らったかのように、上司から和波に連絡が入った。

「和波君、悪いけどさ、駐在を半年延ばしてくれないかな……」

和波の現地での奮闘振りを会社はきちんと見ていたのだ。〝せっかくのビジネスチャンスなのだから、確実にモノにしてみろ〟という上司の思いがストレートに伝わって来た。

「わかりました。とにかく全力で頑張ってみます。後のビジネスのことはお願いします」

現場に溶け込み始めていた和波は、少なからず自信があった。

「わかった。君は、こちらのことは何も考えなくていいから、顧客のために精一杯頑張ってくれ。どれくらいのビジネスになるかはわからないが、後のことは私に任せろ」

こうして、和波の9か月間に及ぶホムトフ駐在の第2章が始まった。しかし、予想もしないような大きな落とし穴が待っていた。

⇒〈その3〉へ続く

 


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