商社の仕事人(50)その4

2018年03月22日

日立ハイテクノロジーズ 和波直樹

 

営業の最前線こそ

“商社は人”を実感する戦いの場

 

 

時には、理不尽でも妥協せざるを得ないこともある

ビジネスの現場では交渉が付き物だが、ホムトフでの9か月間の駐在を経験して、和波はあることに気が付いた。それは、ヨーロッパでは論理的な話は理解してもらえるが、中国では必ずしも論理的な交渉はできないケースが多いということだ。実は、和波が中国向けに液晶パネル材料の営業活動をしている時に理不尽なトラブルに巻き込まれてしまったことがある。

「こちらはちゃんと規格通りのものを納めているのに、代金を回収する段階になったら、とたんに『不良品だ』と言い始めたんです。何を言っても聞く耳を持たず、とにかく頑なに自分たちの主張を押し通そうとします。これには本当に参りました」

まさしく理不尽な話以外の何物でもないが、こういうケースは、中国とのビジネスの現場では少なからずあるのだ。全く筋が通らない話だが、その筋にこだわっていると、いつまで経っても埒が明かない。そうなると、考えるべきことは、利益のことよりも、リスクを低く抑えるにはどうしたらいいのかということだけになる。

「全額を回収しようと頑張ってみても時間が無駄になるだけですし、その方がもっとリスクが高くなるので、時間の方を優先することにしました。最終的には、ある程度顧客の要求を呑み妥結しました。理不尽な妥協を強いられたわけですから、我々が負けた形になってしまいました。最低限の利益は確保することができましたが、これらのリスクを加味した上で始めなければならないのが、中国ビジネスだと実感させられました」

交渉は事前に内容を確認し合い、それを積み重ねて進展させると私たちは考えているが、最後にまったく予想外のことが発生することもあるのだ。和波は、そういう苦い経験をいくつかさせられたが、そのことによって、これは日本と中国の文化の違いに由来するものなのかもしれないと気付かされた。つまり、日本における組織と個人の関係と、中国における組織と個人の関係には大きな違いがあるということだ。

「日本の顧客の場合は、担当者個人との話でも、その人の好き嫌いではなく、組織としてどう判断するかという前提で話ができます。つまり、組織対組織の話であることが前提になっています。ところが、中国の場合はそうとは限らないのです。担当者個人が駄目と言ったら、そこから話は一切進まなくなるんです。たとえ権限のない担当者であったとしても、自分の報酬や評価を優先して考えているところがあるので、自分にとって少しでもマイナスになるような話はあくまでも突っぱねようとする人もいます。会社のことは関係ないのです。日本では考えられませんよね。論理的に交渉をしようとしてもうまくいかないことがあるんだなあ、と勉強になりました」

思えば、こうした経験ができるのも、世界を市場としている商社ならではのことである。もともとグローバルな活躍を目指していた和波にとっては、理不尽な交渉も貴重な経験の1つである。

⇒〈その5〉へ続く

 


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