商社の仕事人(50)その3

2018年03月21日

日立ハイテクノロジーズ 和波直樹

 

営業の最前線こそ

“商社は人”を実感する戦いの場

 

 

トラブルへの対応で、サンドバッグになることを覚悟

 ホムトフでの和波の新しい仕事は、顧客であるテレビメーカーが液晶テレビの部材などを日本から調達するのを支援するというものだった。入社以来2年間、韓国や中国向けに液晶パネル材料の営業を担当していたので、商材そのものについても、ビジネスの流れも熟知しているつもりではあった。だが、ある日、大きなトラブルが発生した。拡大する需要に追いつくため、顧客の生産計画が大幅に前倒しとなり、日本からの急な部材手配が必要となったのだ。このままでは生産ラインが止まってしまう。しかもここは日本やミュンヘンではなく、東欧の田舎町。和波は、藁にもすがるような思いで、部材の出荷元である本社へ電話をした。しかし、本社側の対応は思いも掛けないほど厳しいものだった。

「『そんな短納期じゃ無理だ。部材の製造日数や輸送日数を理解してもらっているのか。応えられない要求をやすやすと受けて来るな』。日本で一緒に働いていれば、もっと心情的にも助けてくれただろうなと思いながらも、仕事って厳しいものなんだなあって実感させられた瞬間です。東欧の小さな街で、孤立無援。本当に寂しい気持ちになりながらも、何とかしてやると心に誓いました」

それからは、顧客の購買部、製造部、生産管理部など、色々な部署から毎日、「納期はどうなった」と追われた。日本からの回答は中々進展せず、確実なのは翌週分のみと言った綱渡り状態。本社スタッフ、仕入先、輸送業者と協議し、1日でも納期を短縮できる方法を模索した。日本からの出張者にハンドキャリーもしてもらった。そんな綱渡り状態の中、品質不良も度々発生した。チェコの人材派遣業者から数名派遣してもらい、数日間選別作業をすることもあった。

「顧客の工場の中に常駐していたので、問題があれば直ぐに話が出来る一方で、常に誰かに呼び止められ、まったく自分の仕事が進まない。日本とは時差があるので、寝る前にベッドの上で電話したり、現地時間の朝5時に起こされることも度々ありました。電話中もキャッチがいつも鳴っている状態。納期の調整だけでも十分追い込まれていたのですが、品質問題が起きた時はさすがに投げ出しそうになりました」

また、時には、あまりに無茶な要求に応えられないこともあり、感情的になった顧客から「何のために駐在しているのか?」と厳しく言われることもあった。

「我々商社は、顧客、仕入先双方に信頼されなければいけない。仕入先がどう頑張っても出来ないのなら、事実をしっかり説明し、心情的にも納得を頂かなければならない。名より実を取る、ではないですが、多少怒られることで、落ち着いてこちらの話を聞いてもらえるのであれば、サンドバッグにでもなってやろうという気持ちでした」

和波はもうヘトヘトの状態だった。食事ものどを通らない、寝ていても夢にうなされる。何度日本に帰りたいと思ったかわからない。それでも絶対に逃げなかった。

任期を終えてホムトフを離れる日、顧客は和波のために送別会を開いてくれた。酒を飲み、歌を歌い、大いに語り合った。ホムトフの人たちに和波の姿は刻み込まれた。和波のホムトフでの苦労は今、月数億円のビジネスに結実している。

⇒〈その4〉へ続く

 


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