トラスコ中山 松井 周
次代の商流を創り、
会社の強みを売る
億単位の売上を自分の手で切り捨てていった
だがこの快進撃も、長くは続かなかった。この頃のトラスコ中山は「取扱商品をプロツールに特化する」 という大命題のもと大きく舵を取り始めていた。そんな中で、売れるものであれば何でも取扱っていたホームセンター事業部は、取扱商品の〝選択と集中〟の時期に入っていた。トラスコ中山の強みであるプロツール以外は、2006年4月からの1年間で整理するという方針が経営陣から出された。つまり、取扱商品はプロツールのみに絞ること、ホームセンター事業の大改革である。
それは、それまでの仕入先様やホームセンターとの取引解消も可能性としては、十分考えられる厳しいものだった。
松井もベッドや健康器具など新規商品の販売を止めなければならなくなった。商品の提案をするのが営業の仕事なのに、提案した商品の納入をやめさせてくださいと言いに回らなければならない。自分で見つけて取引口座を作った仕入れ先の中には、付き合いを止めなければならないところもあった。納得できないと支店長に何度も反発した。営業の立場も理解している支店長は、始めは強く言わなかった。だが最後にはとうとう「お前はどこの社員だ、どこから給料をもらってるんだ」と言われた。
「実は私も、自分がやっていることはちょっと違うかなと薄々は思っていました。だから、なんでも屋になっていて、当社の強みを活かした戦いをしていなかったことを指摘され、ああ、とうとう来たかという感じもありました。でも当社がそれまでお世話になった仕入先のルートを他の商社に渡していくという撤退作業を1年間続けるのは、それはきつかったです」
億単位の取引を、自分の手で切り捨てていかなければならない。
「取引してくれとそっちが言ってきたのに、それはないやろ」
仕入先やホームセンターの購買担当者から半ば罵声を浴びせられながら、このマイナスの仕事を続けた。
だがその経験が自らを成長させる大きな転機になったと松井は振り返る。
「トラスコ中山という会社について、もう一度勉強し直しました。実はオレンジブックにはたくさん売れる商品があり、これだけの物流センターや営業拠点もある。この強みを使った提案ができるということにようやく気づきました。お客様の状況を見て、当社のインフラの中のどの部分を提案していくか。もし在庫を減らしたいと思っていたら、当社の在庫を利用してもらうことが大きなメリットになります。絶対欠品しないで1個からでもお届けするという当社の強みが商品にこもっていれば、同じ品物を他の商社が安く売っても、当社から買っていただけるはずです。それに自ら売上が下がる行為をする営業マンはなかなかいないし、いろんな意味で経験を積んだと思います」
⇒〈その5〉へ続く