ユアサ商事 川原 正
ゼロからの
海外市場開拓に挑む
材料を売るだけでなく工事現場も飛び回った
川原は、入社以来ずっと建材部門で外構資材を扱ってきた。
最初に東京にいたときは、外回りに出る機会がほとんどなかったので、営業とは何をすればいいものなのか見当がつかなかった。ところが半年後に大阪の関西外構エンジニアリングという部門に転勤になると、とたんに何千万円もの売上目標額を与えられた。その時の課長より多い数字だった。
鹿児島出身の川原は大阪に知り合いはいないし、地理もまったく不案内だった。分からないことだらけだが、とにかくやりながら覚えていくしかないと腹を括った。
「販売先は業界で何十年もやってきたプロばかりですが、私は人見知りせずに元気よく飛び込んでいく方なので、結構可愛がられ本当に色々なことを教えて貰いました。彼らは専門業者で、ゼネコンなどの建設会社から工事付きで請け負っている場合が殆どです。
通常、我々商社は材料販売を主にしていますが、販売先の仕事の進め方を理解したいと考えて、同じように工事現場を飛び回って工事付きの販売もよくやっていました。材料の手配が遅れて現場に着かなかったりすると、職人さんがどれだけ困るかも良く分かりました。現場では散々苦労しましたが、販売先の置かれている立場や製品のことを理解できる本当にいい機会だったと思います」
ただ関西の商売人の共通語ともいえる「まいど!」の一言がなかなかうまく口から出せず、客先を訪問したときは「こんちわ」「どうも」とあいまいなあいさつをしていた。
「どうしても『まいど!』だけは、無理して関西弁を使っているように見られそうで、恥ずかしく言えなかったですね。それがいつの間にか言えるようになっていたので、気づいたときは嬉しかったです」
仕事にも慣れてきた3年目に、川原は一生忘れることができない工事に遭遇した。高速道路に防護フェンスを設置する工事で、フェンスはサイズ違いの特注品で、発注してから納品まで2か月かかる。工期は半年近くあったが、初めのうちは書類のやりとりや役所への申請などの手続きがあり、なかなか着工できない。ようやく工事を始めると、思いのほか時間がかかることが分かった。
高速本線上の工事なので交通規制をするが、その費用だけで1日数十万円がかかる。過去に雨でスリップして事故が起きたことがあったので、ポツリと雨滴が落ちてきただけでもその日の工事はできない。工事時間は朝9時から夕方5時までだが、交通規制と解除にも時間を必要とするので実働時間は意外と短い。
工期まであと1か月しかなくなった頃、誰もが浮足立ち始めた。だが元請けの建設会社も、川原の直接の販売先も、そして川原自身も初めての工事で、経験者が一人もいなかった。
⇒〈その3〉へ続く