商社の仕事人(53)その3

2018年04月25日

ユアサ商事 川原 正

 

ゼロからの

海外市場開拓に挑む

 

 

納期までに完成しなかったら、金じゃ済まないぞ

川原は元請けの建設会社に呼ばれ、社長に目の前で凄まれた。

「もしこれが終わらなかったら、お前、金じゃ済まんからな」

なんともいえない恐怖心を呼び起こすだけの迫力があった。川原は青ざめたが、元請け業者は工期を外すとそれ以後は工事を指名停止にされてしまう。相手にも厳守しなければならないだけの事情があった。

この頃になると、現場を仕切るのが川原であることは誰の目にも明らかだった。25歳の商社の一社員が、この修羅場を切り抜けなければならない責任者になっていたのだ。

「請負という字は『請けたら負ける』と書くでしょう。工事というのは請けたら最後、責任を持って絶対に終わらせなければなりません。元請けから専門業者が請けて、そこからユアサ商事が請け負っていますから、私が逃げるわけにはいかないのです」

最後の2週間、川原は昼は現場を走り回り、夜も作業服のままで食事をして寝た。

「川原さん、この材料が足りないよ」
「ここの傾斜はどうやって工事するんですか」

みんなが川原を頼って聞きに来た。ある日、工事が終わって翌日の工程をどうしようか検討していると、高速道路を運営する団体の担当者に「いったいどうなっているのか。今から説明に来い」と連絡があった。

「ただでさえこれじゃ間に合わないと内心あせっていて、明日使う材料も足りない。時間もない。なのに呼び出しを受けて、もうどうしていいかわからない。高速道路の上で体育座りして号泣しました。この時は本当に、今までの人生の中で一番辛かったですね」

⇒〈その4〉へ続く

 


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