ユアサ商事 川原 正
ゼロからの
海外市場開拓に挑む
お前でだめなら諦めるから、行ってこい
現場から離れて海外事業を担当するようになると、それまで休む間もなくかかってきていた電話がパタッとなくなった。仕事に追われるのではなく、逆に仕事を創っていく立場になったのだ。自分から動き出さなければ、何も始まらない。川原にとって初めての体験である。
だが日本から建材を中国に売り込むというビジネスは、これまで成功例がほとんどない。建材メーカーも中国に進出しているが、手間や苦労に見合うほどの収益を得ていないのが現状だ。
その理由を、川原はこう見ている。
「ひとつには、やはりいいものを持って行っても真似されてしまいます。こんな商品はどうですかと提案すると、たぶん1週間後にはほとんど同じものができているよと現地の人に言われてしまうほどです。だから投資しても回収できるかリスクが大きいのです。それと、建材商品は機械などと比べてもともと付加価値が少ないので、どんなビジネスにしていくかをよく考えないと、間違いなく失敗します」
これまでのユアサ商事は、機械を中国市場に売っているというよりは、中国に進出する日系企業に販売している。中国人を相手に売っていくビジネスは、未知の世界だ。川原は正直なところ、調べれば調べるほど現地で市場開拓していく難しさを実感している。
だが日本国内の建材の需要は減少し続けている。回復の兆しを見つけることは難しい状況だ。だから海外に活路を見い出すしかない。上司からは「お前がやってだめだったら諦める」と言われている。
「どうせゼロからのスタートだから、マイナスになることはない。13億人もいるのだから、建材も売れない方がおかしい。絶対に食い扶持はあります。そう考えて、前を向いて行くしかありません」
道路の上で号泣した経験を持つ川原には、もう怖いものはないのかもしれない。
⇒〈その6〉へ続く