商社の仕事人(56)その4

2018年05月24日

阪和興業 山中淳一郎

 

まだ誰もしたことのない

ビジネスを求めて海外へ

 

 

オマーンのクロム鉱山に単身で向かった

その日山中は、中東に駐在中で一時帰国した同期の社員と居酒屋に入り、ビールで乾杯した。久しぶりの再会で話が弾むうちに、山中が今手がけているビジネスの話題になった。フェロクロムやクロム鉱石といった言葉を聞いて、相手がこう言った。

「そういえばオマーンでもたくさんクロム鉱石を出していたな。向こうに戻ったら調べてみるよ」

それが2010年8月のことだった。間もなく山中のもとに彼から連絡が来た。クロム鉱山を見つけたから買い付けてくれという。上司に相談すると「いいんじゃないかな。とりあえずはモノを見に行って来い」という返事である。こうして居酒屋で話をしてから1か月後には、山中はオマーンにあるクロム鉱山の前に立っていた。

駐在事務所もなければ、着いた先での出迎えもなかった。現地の案内人にこれが鉱山だと言われて「ずいぶんでかいな」と感心するばかりである。だが一目見て、設備が簡単だと思った。露天掘りで、発破をかけて削った表面を集めれば済むのでコスト面では間違いなく有利なはずだ。それまで見てきた南アフリカの鉱山は、トロッコを使って地中深くから運んで来なければならなかった。

「オマーンやトルコには阪和の海外事務所がないので、すべて自分で段取りをして進めなければなりません。今会っている相手は本当に信頼できるパートナーなのか。きちんとものが手に入るのか。的確に判断しなければならないし、そこには海外で仕事をするやりがいもあります。希望していた仕事にまた一歩近づいたと感じました」

もっとも山中はクロム鉱石そのものに詳しいわけではない。鉱山の写真を撮り、鉱石のサンプルを持ち帰った。日本へ向かう途中の通関では、何度も「これはなんだ?」と尋ねられ、その都度ビジネス用のサンプル品だと説明しなければならなかった。分析の結果、間違いなくクロム鉱石だということが分かった。

⇒〈その5〉へ続く

 


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