商社の仕事人(63)その1

2018年09月3日

CBC 小畑大輔

 

「無限の領域」を

「自由な発想」で冒険する!

 

 

【略歴】
小畑大輔(おばた・だいすけ)
1977年、神奈川県川崎市生まれ。東京理科大学理工学部卒。2000年入社。

 

世界が認めた〝らしくない〟企業

 東京下町のソウルフード〝もんじゃ焼き〟――。

そのメニューは下町らしい和風ソース味に始まり、いまやチーズやシチューなどを加えたフレンチ・イタリアン系からカレーや香辛料をふんだんに使ったアジア・エスニック系まで、まさにグローバル展開中。しかも、日々絶えず新しい味を求めてチャレンジを続け、古くて最先端の〝日本食〟となっている。そんなもんじゃ焼きの専門店が60店舗ほども軒を連ねる、通称「もんじゃストリート」で有名な街、東京都中央区の月島には、現在、日本人のみならず、2000万人を突破した訪日観光客が押し寄せている。

2016年の初秋、その月島の一角に本社を構える、「開発型〝創造〟商社」として名高いCBCを、欧米の名だたる産業用カメラメーカーの開発者たちが訪れた。

「Welcome to our office! My department is upstairs. This way please(ようこそ、わが社へ! 私の部署は2階です。こちらへどうぞ)」

本社ビル1階のレセプションゾーンで開発者たちを出迎えたのは、イメージ&インフォメーション・テクノロジー・ディビジョンに在籍する入社17年目の社員、小畑大輔である。

1925年に化学品の専門商社として創業したCBCは、ニューヨーク、ロンドン、香港に現地法人を設立した1970年から海外進出を加速。商社のネットワークと営業力を一気にグローバル化させるとともに製造拠点をもグローバル展開し、トレーディングとマニュファクチャリングという2つの機能を世界各地で効率的に連携させ、著しい成長を遂げた商社である。「健康」「安全」「利便性」「環境」の4つをテーマとする事業領域は、医農薬・食品、化学品、樹脂・電子材料、IT関連、自動車関連、セキュリティー関連、ファッション、介護福祉関連など幅広く、世界のニッチ市場でのリーディング・カンパニーと目されている。

このCBCには、「ディビジョン」と呼ばれる5つの事業部門があり、小畑はその中のイメージ&インフォメーション・テクノロジー・ディビジョンに所属し、入社以来、カメラなどの光学情報機器を専門に扱ってきた。CBCの光学情報機器は、国内はもとより、海外で圧倒的な人気と知名度を誇る。なかでも小畑が携わる光学レンズ「computar」は、セキュリティー分野で40年以上の歴史を持つトップブランドで、海外17か国・41拠点の現地法人を通じて全世界へと販売されている。近年では、セキュリティーカメラのほか、道路交通監視システムや車載カメラ、「マシンビジョン」と呼ばれる工場ラインでの製品の自動検査、ロボット制御などにも用途が広がり、まさに引く手数多といった状況である。

ディビジョン内の開発・製造部商品開発グループで課長を務める小畑は、30ほどある商品開発プロジェクトのリーダーとして日々、社内の技術者たちと会議を行い、商品化の道筋作りを行う。小畑は言う。

「私たちが作るのは産業用光学レンズですから、お客様のご要望により、さまざまな制約を受けます。たとえばサイズや解像度、焦点、明るさ、波長、ズーム比などいくつかのポイントがありますが、全ての光学性能を最高レベルに設定することはその特性上不可能です。そこで、お客様から求められている機能を私たちらしい視点で見極め、どの性能を残して、どの性能を捨てるのか、常にトレードオフしながら独自の製品を作り上げていくわけです」

だが、小畑の仕事はこうした商品開発に留まらない。光学レンズの開発というメーカー部門に所属していながら、商社パースンとして海外営業も兼務しているのだ。

「言うまでもなくCBCは商社です。世界中に情報網があるので、いち早くニーズを掴み、他社に先んじて開発し、営業社員たちがそのフットワークを活かして、いち早く提案することができます。この〝情報×研究開発×提案〟のスピード感が非常に大きなアドバンテージになっていると思います」

また、商品開発においても、小畑は独自のスタイルを持っている。それは、決して物事を近視眼的に捉えないという姿勢である。

「〝今〟売れているもの、〝今〟顧客が欲しているものは、競争が激しいので手はつけません。それよりも1歩先2歩先、あるいはまったく異なる観点から企画提案をします。ですから〝これで売れるの? 何に使うの?〟という商品を試作して、お客様に〝驚いた、おもしろい〟と喜んでいただけるかどうかを開発する際の目安の1つとしています」

小畑は自らの商品開発を野球における投手の配球に例える。誰も手が出ないような剛速球を投げる投手は直球だけで三振の山を築ける。一方で、徹底的に球種と配球にこだわることで、新たな道を拓く投手もいる。小畑の場合、3球に1球はスローカーブを投げ込み、打者を幻惑させるとともに、直球も変化球も一級品の超一流の投手であることを強く認識させるのだ。そのためにもスローカーブは「とびっきり遅いか、とびっきり大きく曲がる、人目を引くものでないといけない」と小畑は言う。

 

月島の東京本社を訪れた欧米の産業用カメラメーカーの開発者たちを前に、小畑は普段と変わりなく、自由で大胆で独創的な、いわゆる〝人目を引く〟新商品を交えながら、未来のレンズの姿についてのプレゼンテーションを行った。来日以来、他の国内レンズメーカーも視察し、技術力や開発力には長けているが面白みに欠ける〝メイド・イン・ジャパン〟に、いささか食傷気味だった欧州の開発者たちは大喜び。小畑に向かって口々に叫んだ。

「CBCは日本の会社らしくない!」

こうして小畑は日々、CBCサポーターを世界中に増やしていく。小畑が次は何を提案するのか。わくわくしながら世界の産業用カメラメーカーは待っているのだ。そんな期待を背負った小畑がCBCに入ることになったのは、小畑自身が「ちょっとひねくれていた」と笑う自らの性格による。

⇒〈その2〉へ続く

 


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