商社の仕事人(64)その1

2018年09月17日

トラスコ中山 森﨑由美子

 

会社初の海外法人立ち上げに

奮闘した4年半

 

 

【略歴】
森﨑由美子(もりさき・ゆみこ)
和歌山県生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部卒。2005年入社。

 

ゼロからのスタート 新たなる挑戦の始まり

「とうとう始まったな…」

2010年10月のある日、関西国際空港から飛び立ったタイ航空機の中で森﨑由美子は未知の土地への思いを新たにしていた。

実家がある和歌山県有田郡は関空に近く、見送りに来た家族からは「やりたいようにやってきなさい」と励まされた。後ろ髪を引かれるような思いは全くなかった。

トラスコ中山では、森﨑の同期や以前の職場仲間達が壮行会を何度も開いてくれた。社長の中山は、本当に行ってもいいのか? と森﨑を心配していた。当時森﨑は29歳で、何年か日本を離れることになるため、婚期を逃すのではないかと懸念していたそうだ。

国内のみに拠点を置いていたトラスコ中山にとって、これが初の海外進出となる。森﨑は入社6年目で、現地の市場を開拓し経営を軌道に乗せるという重責を担っていた。3か月間の事前準備で調べた限りの内容は頭に入っていたし、バンコクともたびたび連絡を取ってはいた。それでもいったんスワンナプーム国際空港に降り立てば、もう日本に戻るチケットはない。〝片道切符〟という実感が、初めてひしひしと身に迫った。

トラスコ中山は、工場で使う作業用品や工具を機械工具商などの販売店に卸す事業を柱とする商社だ。最終ユーザーとなる製造業者は販売店からこれらの商品を購入する。その同じビジネスモデルを海外でも展開する第1号として選ばれたのが、経済成長が著しくアジアにおける日系企業の生産基地にもなっているタイだった。

「海外で100パーセント子会社をゼロから立ち上げる経験は、なかなかできるものではありません。すでに子会社や事業所があれば、海外とはいえ転勤の延長ですからまた違った感覚だったかもしれませんが、会社もまだできていないし、電気や水道が来るのもこれからという間借りの一室からのスタートでした」

スワンナプーム国際空港からバンコクの中心街に向かう途中にある倉庫兼事務所の古い建物が、森﨑の新しい職場だった。同じく日本から来た男性の上司と2人で、法人設立のための登記や就業規則の作成にとりかかった。森﨑にとってはもちろんすべてが初めてのことである。順調に進むかに思えたが、まず社名の申請でいきなりつまずいた。日本と同じ「トラスコ」という名称が使えないというのだ。

「トラスト(TRUST)は信頼や信用を意味する言葉なので金融機関などでしか使えないと言われて、いくら頑張っても認めてもらえませんでした。他にも扱えないアイテムがあるなど、色々と制限があることが分かりました」

しかたなく、「プロツールナカヤマ(タイ)」という社名で登記した。だがこれも異国の地で起きる予想外のできごとの始まりに過ぎなかった。

⇒〈その2〉へ続く

 


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