ユアサ商事 大城勇一郎
建設機械レンタル会社に、
あらゆる商品を売り込む
メーカーとともに油漏れした高所作業車の品質改善に取り組む
その工場は上海から高速鉄道で1時間ほど西に行った常州という都市にあった。アジア向けの製品はすべてここで製造している。
ユアサ商事は輸入代理店としてこのメーカーとは長い付き合いになる。高所作業車は大型になると高さ50メートルにまで届くものもあり、十数年前には日本でもよく売れた時期があった。
工業団地の中に現れた工場の外観は立派な構えで、迎えてくれた経営陣は意欲に溢れていた。だが大城は、そんな彼らと現場で働く中国人のワーカーの意識のギャップが気になった。
「工場の責任者は優秀なアメリカ人で、経営陣の中国人も私などよりずっと賢くて、よく発生する故障やクレームの内容を伝えると真剣に聞いてくれました。問題箇所の設計変更とか、品質管理工程を増やすことがその場で決まりました。でも会議では本当のところは分かりません。そこで工場の中を回らせてもらうと、アメリカ流に合理的で厳格な管理が行われていました。ところが本来なら現場で当たり前にやるべきことが抜け落ちていました。工程表に書いてないのでやっていなかったのです。日本の工場であれば、当然なので書くまでもないようなことです」
実際に加工して組み立てるのは現場の工員たちで、経営陣がいくら対策を立ててもその熱意が伝わっているようには見えなかった。さらに休憩室では、タバコを吸っている工員たちの周りの床に吸殻や果物の皮が散らばっていた。上層部のエリートたちはタバコを吸わないので、休憩室まで足を運んだことがなかったのだろうと大城は推測した。
「作業区域さえ管理すれば、休憩室は散らかっていてもいいと思ったのかもしれません。でも私が日本からクライアントを連れてきたらこの光景は見せられません。一般的な日本人は、こんなところでまともにものが作れるはずがないと思ってしまうでしょう」
大城がこう説明すると、責任者は「分かった。今度までに改めておく」と約束した。
「今は中国が大きな市場だし、東南アジア向けの出荷も増えています。でも日本にも世界を代表するレンタル会社がある。そこに認められようじゃないか、だから頼むよと私は本気で伝えました。向こうも今、日本市場に対して改めて本気で取り組んでくれています」
彼らにとっても、大城が高所作業車を扱うようになってからユアサ商事の存在感が増していることは間違いない。
⇒〈その6〉へ続く