稲畑産業 栃尾裕輝
長い企業の歴史に
新たなDNAを
BtoBの手応えにくすぶった新人時代
1年目は物流や輸出入業務の基礎、また後半からは食品本部の主力・冷凍果実の顧客を任された。北米、南米、欧州、中国など世界中から冷凍果実を調達し、食品メーカーや外食店に納める仕事だ。
〝食品に関わりたい〟〝常に新しいことにチャレンジしたい〟そんな思いから商社に進んだ栃尾だったが、早くもここで壁に突きあたる。ダイレクトに成果が見えるコーヒーチェーンでの店舗マネジメント、またBtoCのサービスやホスピタリティに意味を見出していた彼にとって、BtoBのビジネスは手応えがなく感じられたからだ。
〝精いっぱい頑張っていいものを納めても、BtoBでは当然の結果としてしか受け止められない。これではただの事務作業と変わらないんじゃないか〟相手の喜びが伝わってこず、自分の存在意義が見出せない。上司にそんな違和感を訴えると、時間を割いて話を聞いてくれた。
「じゃあ方法を教えるから新しい仕事を作ってみよう。ただしやるのはお前自身だぞ」
こうして上司のアドバイスで飛び込み営業にチャレンジした栃尾は、やがてヨーグルトアイスに使用する冷凍果実の案件を獲得する。だが周囲からも評価されて喜ばしい思いを感じたものの、依然として心のなかで何かがくすぶり続けていた。
冒頭の中国出張が決まったのは、ちょうどそんなタイミングだった。顧客が求める日本向けの桃のピューレを安定して製造すること、また品質や農薬などの基準は規定通り満たされているか、シフトなど労務管理に問題はないかといったことを2週間の間に現場で実際に確かめるというミッションだった。
「中国語がわからない? 心配するな、工場にはカタコトだが日本語のできるスタッフが1人いる。何とか頑張ってやってこい」
と言い放つ上司だが、現場についてまだ何も知らない栃尾は途方に暮れるばかり。飛行機はそんな栃尾とピューレの納入先となる顧客の担当者を乗せ、大陸に向けて飛び立った。
⇒〈その4〉へ続く