長瀬産業 今村謙太
モノづくり大国・日本の
復権のために
こんなはずでは……つらく孤独な日々
ナガセケムテックスは兵庫県の片田舎にあった。学生まで大阪の都市部に住んでいた今村は工場から徒歩10分の社員寮に入寮した。周辺には広大な畑と民家がぽつぽつと建っているばかりだった。
その工場へ毎朝9時前に出勤。作業服に着替えて全員でラジオ体操をした後、現場へ。作業員たちと薬液や樹脂の入ったドラム缶を運んだり、巨大な釜で薬液を製造する毎日が始まった。
作業員は職人なので手取り足取り教えてくれることはなかった。
「このドラム缶をあっちに移動させておけと簡単に言われても、何しろドラム缶の重さは200キロもあるんですよ。ベテラン作業員は軽々と回しながら移動させていけるけど、私はなかなかうまく回せず苦労しました。どうして商社に入ったのにこんな工場で汗と廃液にまみれて働かなきゃいけないんだと思いながら働いていました」
しかもこの工場に配属された新入社員は今村ひとりだけだった。グチを言い合う仲間もいない。食事の多くはひとりでコンビニ弁当。日に日に孤独感が募った。
一方、同期のみんなはどうしているかなと電話して話を聞いてみると、先輩と一緒に客先へ行って商談したり、お得意様と一緒に飲んだりと、いかにも商社の営業らしい日々を送っていた。
「同期たちはまさに自分が思い描いていた商社パーソンそのものでした。そんな同期の話を聞くとうらやましいと思うと同時に、いきなり差をつけられた気がしてますます落ち込みました。俺なんかド田舎の工場で毎日廃液まみれで仕事をしているんだぜと言っても、そうか、たいへんだなと言うばかりで……。でも研修期間は1か月半だとわかっていたので、その間は頑張り抜こうと思っていました」
しかし後に、このときのつらい経験が今村を救うことになる。
⇒〈その4〉へ続く