商社の仕事人(41)その6

2017年12月30日

長瀬産業 今村謙太

 

モノづくり大国・日本の

復権のために

 

 

台湾でなめた苦汁

2年目には液晶パネルを製造するための設備を中国や台湾のメーカーに販売する仕事を手がけるようになった。装置1つひとつの価格は1,500万円から2億円、一式ともなると10億円以上とビジネスの規模が大きくなったことで、営業の仕方も商談から入札に変わった。

そんな中、台湾の液晶パネルメーカーが工場を新設することになり、その際に導入する設備一式の入札が行われることになった。受注に成功すれば10億円の売り上げとなる。その大きな入札に今村は長瀬産業の代表として挑むこととなった。

まずは、入札を主催する企業の社員たちを何度も食事に招待して朝まで飲み明かすなどして交友関係を築いた。そして、少ない機会の中でいかに自社の装置が優れているかを入札日直前までアピールし続けた。その甲斐あって、入札の担当者は絶対に長瀬産業を選ぶと明言した。

「よし、彼らを何度も接待してアピールした甲斐があったと思いました。上司にも報告するとよくやったなと褒めてくれました」

受注の確信を得てほくほく顔で帰国した今村は、入札の結果を待ちわびた。しかし、先方からの連絡は「失注」。

「一瞬頭の中が真っ白になりました。昨日の話と全然違うじゃないか! どういうことだと問い詰めても担当者は悪びれることもなく、ちょっと事情が変わった、と。これまでお前らに費やした時間と金を返せと叫びたくなりました」

しかし、現実は受け入れ正しく対処しなければならない。まずは重い気持ちで上司に報告。失注の結果を聞いた上司は昨日の話と違うじゃないか、どうなっているんだと驚いた。

そして、すぐさま上司とともに台湾へ飛び、担当者に直接失注の理由を問いただした。すると、現地企業に受注が決まったのは賄賂をもらったからだということがわかった。

当時の台湾や中国では応札する企業の営業マンが受注を勝ち取るため、入札を主催する企業の担当者に賄賂を渡すという不正行為が横行していたのだ。また、入札を主催する企業も公然と賄賂を要求していた。

「例えば、〝長瀬産業の見積もりは10億ですね。今回の入札は長瀬にしますからその3%を私にキャッシュでください〟と平気で言ってくるんです。当然ながらそれには応じられないので、食事やお酒の接待や製品のアピールで受注を勝ち取ろうとしていたわけです。しかし、最後の最後でひっくり返されるなんて……。我々の考えが甘かったということです」

10億円という規模が大きい入札だっただけに、その分ショックも大きかった。さらに、現地での受注活動をひとりで担当した結果の失注だけに悔しさもひとしおだった。しかし、そこでめげる今村ではなかった。

「不正行為で受注した現地企業の装置よりも当社の装置の方が優れているのは明白なので、当社に発注しなかったメーカーはいつか絶対に痛い目を見る。やっぱり当社の装置をほしいと絶対に言わせてやる。そして、今後の入札では絶対に負けないと自分自身に固く誓いました」

⇒〈その7〉へ続く

 


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