商社の仕事人(41)その7

2017年12月31日

長瀬産業 今村謙太

 

モノづくり大国・日本の

復権のために

 

 

反省と努力でリベンジ成功

今村は入札に負けてしまったにもかかわらず、台湾企業の工場が竣工してからも足繁く通った。現場の担当者にヒアリングすると、思ったとおり不具合が出ていた。そこで自社装置を売り込んだところ、導入してもらえることになった。リベンジ第一弾は成功だ。

「とはいえ、ひとつの装置なので売り上げはせいぜい1億円程度。失った10億には遠く及びません。ですから、装置一式の受注に成功することだけを考えていました」

2008年当時は台湾、中国、韓国などで液晶パネル市場が活況で、各地で新工場建設プロジェクトがどんどん立ち上がっていた。

そのうちの台湾メーカーが主催する入札、商談に再び今村主導で参加することとなった。設備の規模は前回失注した10億円規模の装置一式と同じだった。

しかし、前回と同じアプローチではまた同じ轍を踏むことになる。そこでもう一度戦略を練り直した。まず、入札を実施する会社の社長以下、入札に影響力をもつ全階層の社員と一緒に食事をして関係性を深めた。

また、ライバル企業の製品を研究した上で、技術的な根拠を元に自社製の装置が他社製よりもどれほど優れているか、先方が理解するまで懇切丁寧に説明した。同時に他社製品を使用した場合のリスクを具体的な例を提示して指摘。確かに価格は他社製よりも高いが、リスクが低いから長い目で見れば優位性があるという点をアピールした。さらに、これまでほとんど見直すことがなかった価格自体も自社メーカーと交渉して低価格化を実現させた。

「もうできることはすべてやりました。〝人事を尽くして天命を待つ〟の心境でしたね」

そして迎えた入札の結果発表の日。台湾からもたらされた知らせは「受注」だった。

オフィス内に拍手と歓声が湧き起こった。

「おめでとう、よくやったな」上司が今村の元にやってきて右手を差し出しながら言った。「ありがとうございます」今村もがっちりとその手を握りしめた。

同じグループ内の商社とメーカーが一体となって努力した結果勝ち取った受注だった。

「このときは涙が出るほどうれしかったです。前回のリベンジを果たせたわけですからね。わずか2年目の私を信頼して大きな仕事を任せてくれた上司に感謝しました」

入札は博打のようなもの。薬液の場合は他社が先に入っていても商談次第で全部自社製品に変えさせることができるが、装置一式の場合は入札で他社にもっていかれるとその後どんなに頑張ってもそのすべてを自社製にひっくり返すことは難しい。つまり、入札で負けたら一巻の終わりなのだ。それだけに大きなプレッシャーも感じていたはずだ。

「確かに一発勝負なので重圧はかかりますが、だからこそやりがいを感じます。取れなかったらゼロですが、取れたときは億単位の利益を得られますからね。特に責任者として先方の経営レベルの面々と対等に話して受注を勝ち取れたときは、これぞメーカーポジションの営業の醍醐味だと感じました」

そこには、わずか1年前に廃液工場で泣きべそをかいていた人間とは思えない、大きく成長した今村の姿があった。その後も2010年まで台湾や中国で数多くの大規模案件の入札に参加したが、そのすべてにおいて受注を勝ち取った。今村は入社4年目にして、名実ともに若手のエースに成長していた。

⇒〈その8〉へ続く

 


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