商社の仕事人(41)その5

2017年12月29日

長瀬産業 今村謙太

 

モノづくり大国・日本の

復権のために

 

 

トラブル対応で自信を深める

少しずつ仕事の喜びを感じ始めていたそんなある日、メインのお得意様のひとつであるH社の品質部門の担当者から電話がかかってきた。納入した薬液に問題があるからすぐに来いという。取るものも取りあえず、すぐに会社を出てひとりでH社に向かった。

「先方は詳しいトラブルの内容については話さなかったので、行きの電車の中ではどういったトラブルが起きたのだろうと不安でしたが、なんとかなるだろうと思っていました」

1時間半ほどかけ電車とタクシーを乗り継いでH社に到着。別室に通されるとそこには担当者と怖い顔をした課長がいた。この課長はH社の中でも特に厳しいことで有名で鬼課長と恐れられていた。

これはまずい人が出てきちゃったな……。そう思いながら挨拶して席に着いた。

今回のトラブルについて担当者からのクレームは以下のようなものだった。液晶パネルに使う半導体を洗浄する際に使用している薬液は一度だけではなく何度も繰り返し使えるはずだが、汚れがきれいに落ちない。品質に問題があるのではないか。

しかし、よくよく話を聞くと、すでにきれいに洗浄できる上限の使用回数を超えていたので、それが原因だと説明した。しかし、担当者は納得いかないと主張。課長も恐い顔で睨んでいる。

そこで今村は、その部屋にあったホワイトボードに薬液の構造式をさらさらと書いて、それを元に品質そのものには問題がなく、先方の使い方に問題があったからこういうトラブルが発生したと説明した。

すると、鬼のような顔をした課長の顔がほころんだ。

君すごいじゃないか。さすが長瀬産業の営業だな、と今村を手放しでほめた。そして、横に座っていた担当者に「君にこんなことができるのか?」とまた鬼の顔に戻って言った。今度は担当者がうなだれる番だった。

今村は心の中でガッツポーズをした。

「やってやったぞ! という気持ちでしたね(笑)。その場で構造式を書けたのはまだ大学を卒業して日も浅く化学の知識が残っていたから。そして何より工場で1か月半研修した成果ですね。あの研修で薬液のことをかなり深いところまで理解できましたから。そして、こんなふうに技術をバックボーンに客先の担当者と対等に渡り合えることに誇りと自信を持てました。工場研修当時はつらかったですが、メーカーポジションの営業部に配属されて本当に良かったと考えが変わりましたね」

⇒〈その6〉へ続く

 


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