阪和興業 井川慎一
世界でwin-winを語る
コテコテ商売人
情報の値打ち
形鋼は一般的に汎用商品であり、どこででも購入できる。当然、加工業者や特約店は何かメリットがないと買ってくれない。すると僅かな価格差が決定的な違いになる。そこで価格や市況などの情報をどれだけ持っているか、どのタイミングで誰に教えるかが営業の武器になる。販売先、仕入先、商社の関係の中で情報をうまく扱うノウハウを、井川はこの時期に徹底的に学んだ。多大な影響力という看板の下の『阪和の仕入担当』から、個人力を求められる『阪和の井川』へと成長していったのである。
「仕入に関する情報は、これまで付き合いのあるメーカーや自社の仕入担当から入手できます。それを販売先の社長が欲しがるのですが、言えることと言えないことがあります。言えることであっても、自分から話が漏れたとなれば今後の信用に関わります。だからこの人に話せば誰に伝わってしまうということまで頭に入れて、どこまで言うかその場で判断します。一方では販売先の社長からも情報を得て、それを他の販売先との商談や仕入交渉に役立てていました」
井川が掴む情報の源泉は、商談の場だけではなく、お客さんとの会食の場にも現れる。飲みながらする他愛もない話の中で、お客さんがポロっと口に出した一言、その点が線となり面となって後に自分の大きな武器となる、そんなケースが少なくない。たとえ目的が情報収集でなくても、「常に大切な情報は転がっている」とアンテナを張り続けているからこそ、どんな場所にいても拾うことができるのだ。
また、手に入れた情報を精査して他で活かす。「生の情報を伝えると、今まで教えてくれなかったことも、意外にもあっさり教えてくれたりします。ノックするドアを間違えなければ開けてくれるので、売りで手に入れた情報を仕入に生かし、仕入で手に入れた情報は売りに生かすという繰り返しでした。仕入先にとっても販売先にとっても情報をたくさん持っている私とは付き合うメリットがあります。何でそんなことまで知っているの? とよく聞かれました」
もちろん情報源を明かすわけにはいかない。「それは秘密ですよ」とかわす事が次の信頼につながっていった。
⇒〈その5〉へ続く