阪和興業 井川慎一
世界でwin-winを語る
コテコテ商売人
想いを運ぶ商売人
しかしこの交渉も、まとまるまでには紆余曲折あった。
「最初は仕入先にも断られました。急にそんな大量の注文が来るなんて怪しい、本当に大丈夫なのかというのです。そこで仕入先には、阪和は販売先の発展を考えてこの商談を進めている、今後も継続した付き合いをしたいという熱い想いを伝えました。人の心を動かすには、とにかく想いを伝えることです。だからここぞというときには長文メールも書くし、電話もしつこいぐらいかけます。もちろん最後はFace to Faceで完結します。それは海外の会社に対しても同じで、取引の意義を熱く語り続けました。そうやって真剣に話しているうちに、相手も乗ってきてくれるようになったのです。マッチングするには、そこまでやるべきなのです。人と人の間に立つ商社の人間として、私はこのようなやり方を大事にしています」
海外の案件だと言葉の壁もあり、簡潔に伝えることを優先してしまいがちだと井川は言う。そこを面倒がらずに、とことん想いを伝える。部署始まって以来のベトナム向け大型商談を成立させたコテコテの商売人は、世界を相手にした確かな交渉術を身につけていた。
「行きたい国には仕事を作れば行けるのが、阪和の社風ではないでしょうか。目的がはっきりしていれば、明日海外出張に行くと言ってもこの部署では認められます。けれども商機を広げるには、情報分析も成立した商談を円滑に完結させる事務処理も手を抜けないので、月に3回も出張があるともう手が回らなくなります」
新しいビジネスを開拓するには、国や地域の人口や成長率、主要産業の分析などマーケティングが王道である。だがそれ以上に、『自分が興味のある国を調べると新しい可能性を発見することに繋がる』というのがいつも全力で走り続ける井川の持論だ。
「マッチングさえうまくできれば、鉄にこだわらず何でも売りたい。今はそのために経験を積んでいるところです」
引き出しを増やして、誰も思いつかないようなビジネスを実現させ、関わった人みんながwin-winになる。それが、井川が目指す商売人である。
学生へのメッセージ
「合宿では朝から晩まで声を枯らすほど練習するような厳しいサークルで、150人ぐらいの大所帯。その幹部として運営等大変でしたが、後輩には苦しい姿を見せるなという掟があり、苦しいときこそ笑えと教えられました。阪和興業との出会いはゼミの先輩を通してでした。それまでは商社のことすら殆ど知りませんでしたが、何でもできる会社と紹介されたので、純粋な疑問と興味を抱き、多くの社員に会わせていただきました。仕事も性格もさまざまでしたが、こういう人達になりたい、一緒に働きたいと思える先輩が多かったので阪和興業への入社を決めました。就職活動ではたくさんの人と会い、たくさん話をしてください。是非、一緒に働きたいと思える人が1人でも多く見つかる会社を探して頂ければと思います」
井川慎一(いがわ・しんいち)
1985年千葉県生まれ。中央大学経済学部卒。2008年入社。現在は線材特殊鋼・チタン部線材特殊鋼国際課に所属する。高校時代は、カナダ・ノバスコシアの州立高校に通い、ソフトボールやボランティア活動に力を入れた。また、大学時代はテニスサークルの活動に明け暮れたという。
『商社』2018年度版より転載。記事内容は2016年取材当時のもの。
写真:葛西龍