日立ハイテクノロジーズ 本永彩子
人をつなぐ商社ビジネスで
海外案件の新規立ち上げに
突き進む
「必ず宿題を持って帰れ」
こうして始まった本永の担当業務。だが単に決まった業務をこなしていくだけでは、売上を守り抜くことはできない。金額の要望、技術仕様、そして日進月歩の技術革新によって、ビジネスの条件は常に変動するからだ。低価格で高性能な新製品が登場し続けるなか、本永は顧客に対して常に新しい価格を提案する必要がある。
一方でカードの心臓部であるICを新製品と入れ替えるのは、困難な作業だ。ICカードの部材は開発計画のロードマップがその都度策定され、求められるスペックなど諸条件を全て勘案しながら開発スケジュールに落とし込んでいく。もちろんライバルの動きからも目を離さず、提案に反映させなくてはいけない。従来の売上を維持していくための取り組みが、新しい開発の連続となる。
そうしたなかで突破口となる切り札は、ほかでもない粘り強い交渉だ。
「簡単にいえば『たくさん長く買っていただければお安くできます』といった説得です。もちろん安くしすぎると自分たちの首を絞めてしまうので(笑)、納入する量や期間、また技術的な部分も含めて、総合的に条件を見極めなくてはいけません」
勘案する条件が多岐にわたるため、交渉相手の数も多くなる。場面ごとに顧客の営業担当、購買担当、開発陣と、各方面にコミュニケーションを図っていかなくてはいけない。本永は日立ハイテクノロジーズが培ってき多様な人脈、人とのつながりを大きな武器として、顧客にとって魅力ある条件を形にしていくことを繰り返してきた。
「先輩が築いた売上を守り抜く」との強い使命感から、入社以来奮闘を重ねてきた本永。その努力は次第に成果となって結実してきた。現在では社内、仕入れ先、そして顧客から「本永に任せておけば安心だ」という確固とした信頼を勝ち得るまでになっている。
「金額の大きな取引を信頼して任されているという自負が、仕事に取り組む支えになっています」と、担当への思い入れを語る本永。だが現状に安住することはできない。いまあるこの仕事を原資にして、かつて先輩がそうしたように新しいビジネスを立ち上げていく使命があるからだ。
そんな本永に対して、上司が入社以来言い続けてきた言葉がある。
「お客様のところに行ったら、必ず何か宿題を持ち帰れ」
顧客とのやり取りから次につながりそうなヒントを見つけ出し、それを欠かさず宿題として答えを追求するということだ。「ところでこんなことでお困りではありませんか?」「これについて私どもにできることはありませんか?」。本永は日々このような働きかけを通じて、新規案件の立ち上げを模索し続けてきた。
⇒〈その4〉へ続く