CBC 野澤大地
研ぎ澄まされた〝嗅覚〟で、
未来のビジネスを切り拓け!
優しさに支えられて完成した〝宝物〟
シカゴ・オヘア空港に到着し、入国審査を終えた野澤たちは、シカゴ市内のホテルにチェックインを済ませると、すぐさま郊外の工場へと向かった。野澤たちを待っていたのは原料メーカーの経営者。メールでのやりとりはあったが、野澤と会うのはもちろん初めてである。
「ハロー、ナイス・トゥー・ミーチュー」
簡単なあいさつと自己紹介を済ませると、野澤はおもむろにバッグの中から1冊のノートを取り出した。中にはびっしりと英文が書かれている。実は野澤は英会話にはまったく自信がなかった。そこで、日本を発つ前に英語の上手な先輩社員に頼み、契約にあたって必要不可欠な質問内容や契約の注意点などを翻訳してもらっていたのである。しかし、商社パーソンと言えば、英語がペラペラなのが常識中の常識。驚きのあまり目を丸くするクライアントと原料メーカーの経営者を前にして、野澤はノートの1ページ目をめくり、その英文をゆっくりと読み上げ始めたのである。
「中国語には自信があったのですが英語は…(笑)。恥ずかしい話ですが、入社後初めて受けたTOEICのテストでは、選択肢をすべて〝CBC〟の順番で答えて250点。半年後に再度受けても300点だったんです(笑)。もちろん上司もこのスコアを知りながら、僕をアメリカに送り出してくれたわけです。アホでも現場に行けばなんとかするだろうと。その上司の勇気と優しさには本当に頭が下がります」
今だから笑って話せるが、その場での野澤は必死だった。英文を読み上げても、発音が悪くて相手に伝わらない部分は、直接ノートを見せて理解してもらい、経営者の言葉が聞き取れない場合にはノートに英語を書いてもらった。それはまさにビジネス英語の〝筆談〟だった。
「日本から一緒に来ていただいたクライアントの方もかなり驚かれたとは思いますが、たいへん心優しい方で、僕のことを信頼して、〝すべて任せるから〟とおっしゃっていただきました。ただ、当たり前のことなのですが、クライアントの方も原料メーカーの経営者も常に僕の顔を見て話をするわけです。その緊張感とプレッシャーにはものすごいものがありました」
こう語る野澤。しかし、その肝は太く、どっしりと据わっていた。この出張において重要なのは、英語を上手に話すことではなく、工場の設備の詳細を確認することだと割り切っていたのである。そこで、野澤は工場内の視察では、プラスチック製のクリップボードに真っ白なレポート用紙を挟み、あらゆる生産工程の図をつぶさに描き入れては、その構造や製造技術を事細かく経営者から聞き取り、書き入れていった。もちろん、ヒアリングできない部分は経営者に直接書き入れてもらった。
「東京で同じ工場が再現できるほど、微に入り細に入り書き留めました。本来なら機密保持契約をしないと聞いてはいけない企業秘密に至るまで詳細に確認することができたんです(笑)。それもやはり、その経営者の方が嫌な顔1つせず、僕を信頼して話してくれたおかげだと思います」
こうして上司、クライアント、メーカーの経営者の全員に信頼され、優しく支えられた野澤は工場視察を終え、無事に成約にこぎ着ける。与えられたミッションをすべて完了させたのである。
帰国後、野澤は工場視察で得た情報を出張レポートに目一杯詰め込み、上司に提出した。その分厚いページを1枚めくっただけで、上司はすぐに理解した。野澤を送り出した自らの判断の正しさを、そして、初めての海外出張で発揮した野澤のなりふり構わぬ現場力を。
「その出張レポートは、僕がこれまでに書いた出張レポートの中でも最高の内容じゃないでしょうか(笑)。それは、僕の宝物だと思います」
野澤はシカゴで待ち構えていた初めての〝試練〟を見事に克服し、CBCパーソンとして、1つ大きく成長したのである。
⇒〈その5〉へ続く