商社の仕事人(20)その6

2017年05月27日

CBC 野澤大地

 

研ぎ澄まされた〝嗅覚〟で、

未来のビジネスを切り拓け!

 

 

〝変わり者〟に商機あり!

野澤を取り巻くインドの環境は決して良好なものとは言えなかった。しかし、ムンバイへの駐在を決めた時点で、それは承知の上だった。まずは日本のCBC本社を頼って日本マーケット用の医薬品ビジネスを立ち上げ、ゆくゆくはインドを本社と見立てて世界のマーケットに対してムンバイから直接ビジネスをしかけてやろう。そんな野望を目論んでいた野澤にとって、あらゆる困難は折り込み済みだったのである。野澤はとにかく製薬メーカーを回り、必ず工場内部を見せてもらった。そして、その工場の製造記録や成分の分析表などにも目を通した。すると、いくつかのメーカーで成分のばらつきなどがあることを野澤の〝鼻〟は嗅ぎつけた。そのばらつきの原因を分析データなどをもとに指摘することで、野澤は次第に製薬メーカーの担当者たちから一目置かれる存在となった。

「日本から技術指導に来た変わった男がいる」

そんな噂が製薬メーカーの間に広がり始めた。これは野澤の作戦だった。

「営業というのは、技術や情報などをこちらから提供できる態勢で会いに行かないといけないと思うんです。そのメリットを与えることによって、相手から感謝され、お互いがリスペクトし合い、ビジネスへと発展していくのです」

そんな中、過去に一度だけCBCと取引をしたことがあるという、インドで5指に入る年商600億円の大手製薬メーカーの実力者から声がかかった。それは経営者でありつつも博士号を取得している、ちょっと風変わりな科学者だった。

「僕はそういう〝変わり者〟と呼ばれる人に好かれるんですよね。口数が少なくて頑固な権力者タイプに(笑)。その人には、日本向けに医薬品を製造するメリットについて、相手も納得しやすい科学的な根拠を示しながら口説きました」

頻繁に訪問して、繰り返し話をするうち、野澤はその実力者からついに「やってみるか」の言葉を引き出すことに成功した。そこで、野澤はまず先方の製薬メーカーのシステムをほとんど変えずに日本向けに出荷できる製品について扱うことにした。仕様を変更する必要がなく、販路が広がるのでメーカーも悪い気はしない。しかも、わずかであっても目に見える形で利益が上がるのが分かる。その利益を十分に実感させたところで野澤は日本の基準をクリアするために少しずつ細かなオーダーを入れていく。すると、製薬メーカーもそれまで渋っていたオーダーに素直に対応するようになった。こうして当初、十億の売上だったものが数年で3倍にまで増加。現地法人CBCインドは見事に自立を果たしたのである。

⇒〈その7〉へ続く

 


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